風の町にて
田舎へ帰った。今年の初めにメニエル氏病などを患った母の、その後が気になっていたが
思ったより元気になっていた。
京土産に和菓子を買って帰る。大津生まれだから京菓子が好きだ。くず桜、みなづき、鮎の3種だったが、水無月は 美味しそうとすぐ口にした。
夕ご飯も、いそいそと支度にかかる。ずいぶん快復したなと安心する。敦賀の浜でとれた甘エビとアワビの刺身が食卓に出た。味噌汁はこれまでの赤味噌でなく白味噌に変わっていた。塩分を控えるためだそうだ。ジュンサイの味噌汁も悪くない。ただ、母のメニューでいつも困るのが油ものというか肉類が一つもないことだ。私が物心ついてから40年ほど、母が肉を口にしたことは見たことがない。それでよく体がもつものだ。粗食だから長生きできると、本人は自慢するのだが。
夕食をとりながら近況を聞く。最近、振り込め詐欺の電話が頻繁にあるそうだ。一度騙し取らそうな経験をしてから母はあしらいがうまくなったのだが、それでも信じられないくらいたくさん電話がかかってくるそうだ。汗も流さないで人を騙して金を巻き上げようとする若い輩が、今増えているのだ。
1昨日も電話があって、「信義さんはいますか」と、父の名前を出した。聞き覚えのない声なので「どちらさまでしょうか」と母が聞くと、「去年、いろいろお世話になった者ですが」と答えたので、あの詐欺だなと母は気づいた。父は12年前に死んでいる。
「いつ頃帰って来られますか」と聞くので「夕方には戻っているでしょう」と答えた。
「またかけます」と電話は切れた。
電話を置いた後、母はまるで父が生きて帰って来るようで可笑しくてたまらなかったそうだ。一人で笑うのはもったいないと祭壇の写真の父に報告したそうだ。
こんなケースは笑えるが、罪のない年寄りを心配させて騙し取る輩はけっして許せない。
夜になって、風が強くなった。風が吹き抜けて雨戸をガタガタ鳴らせている。「風がつよいなあ」と言ったら、母は嫁いできたときからこの町は風がきついと思っていたよと答える。
私が子供の頃はそうは思わなかったが、大阪、東京、長崎、広島、大磯と住み変えてくると、たしかに何処よりも、敦賀は風が強い。そういえば、井伏鱒二は荻窪を風荒き町と書いていたが、敦賀はもっと荒いと思う。
10時過ぎ、母は高いびきをかいて寝ている。
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