悪趣味
土曜日、京都から敦賀まで帰るときのことだ。
京都3時10分発サンダーバード27号に乗った。禁煙指定の10号車だ。私の前の席に初老の男が座っている。アタマは私よりだいぶ薄いが顔つきからするとまだ40代ではないだろうか。夜回り先生のような、渋い中年だ。発車間際、そわそわしている。挙動不審。
そこへ帽子をかぶった中年女性がやってきた。いそいそと男は隣の席を空ける。二人とも嬉しそうな顔だ。松本清張化した私の観察によれば、この二人は不倫関係だ。少なくとも男は妻子もち。帽子の女は独身かもしれない。女は42,3といったところか。帽子をかぶるというセンスがイマイチいただけない。化粧もやや時代遅れ。派手な格好だが野暮ったさが目に付く。仕事ばかりしていて婚期を外したといった風情だ。この女性にはなんとなく、大学の事務にいそうなタイプを感じる。すると、相手の男は大学の教員だろうか。
席につくや、そろってシートを倒しシンネコになった。シンネリ、しっぽりの意味だ。山科を越え大津を過ぎ、琵琶湖が広がり始めると、二人の声はしだいに大きくなる。おそらく危険区域を脱して、二人は気が大きくなったのだろう。女は皇后陛下のように帽子をかぶってすましているくせに声が大きく、話しかたがはすっぱだ。
うむ、先行き男はこの女に振り回されるぞ。ざまあ見ろ、という心境に私はある。やっかみが半分あるのは認めなくてはなるまい。が、現在の二人はそんな「怨望」も「嫉妬」も目にも耳にも入らず幸せな気分にある。会話の声はますます大きくなる。はしゃいでいる。
土曜日の旅、男は大阪から乗り女は京都から合流して、週末北陸へしけこむ図か。
右手に竹生島が見えてきた。二人は今晩の予定を話しあっている。片山津に泊まるらしい。北陸温泉郷の一つ。関西の奥座敷と言われている。なるほど、関西の不倫男女の避難場所か。織田作之助の世界だ。
やがて話題は職場の人間関係に移っていった。固有名詞が飛び交い盛り上がっている。
車掌が検札に来た。二人は握り合った手を慌ててふりほどく。車掌はちらっと二人を見る。二人顔をそむける。
私はブログ用に京都の出来事でも記そうとパソコンを取り出したところで、この(不倫)が目に飛び込み、観察を記録するうちについに中継記事を書き始めたが、観察すればするほど面白かった。乗客観察は退屈しのぎにちょうど良かった。悪趣味と自覚はある。
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