
ルネ・マグリット
ニューヨークのオノヨーコさんのアパート、ダコタハウスに足を踏み入れたとき驚いたのは、本物のマグリットの絵が掛かっていたことだ。たしか、暖炉の中から機関車が黒い煙を吐いて前方に飛び出してくる図だったと記憶する。
ベルギー生まれのこの作家はシュルレアリストとして評価されるが、私には〈親しい日常〉の画家におもえてならない。
マグリットの描く風景は不思議であるのだが、どこか見たことがあるような、心当たりがあるような懐かしいものを感じる。
○巨大な岩が海の上に浮かんでいる。その岩の上に古城がある。
○蛾蛾たる山脈、麓には卵があって、その風景は大鷲になっている。
○開けられた窓の前に置かれた画架。そこに描かれた画は外の風景そのまま。だからどこからどこまでが本当の風景か。
○鳥の形に切り抜かれた空。指の生えた靴といった不可思議なイメージ。
中で一番好きな作品は「光の帝国」(1954)だ。
画面の下半分は夜の世界。街灯がついて窓に明かりがともっている。上半分は昼の世界。青い空に白い雲がぽかんと浮かんでいる。これをイリュージョンと呼ぶのだろうか。私にはそう思えない。こんな風景を目にしたことがあると思えてならない。晩秋のヨーロッパか初秋の大磯か、どこかで見た風景に思えてならない。
たそがれ時、高い梢が次第にシルエットに変わってゆくあの時間。逢魔が刻。
と、ここまで書いていたが、あの詩を思い出した。三好達治の「少年」だ。
夕ぐれ
とある精舎の門から
美しい少年が帰ってくる
暮れやすい一日に
てまりをなげ
空高くてまりをなげ
なほも遊びながら帰ってくる
閑静な街の
人も樹も色をしづめて
空は夢のように流れてゐる
そうだ、「人も樹も色をしづめて空は夢のように流れてゐる 」。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング