人と人の不思議な結びつき
川本三郎さんの「今日はお墓まいり」を読んでいて、共感する一節を見つけた。
第1章の漫画家寺田ヒロオさんのことにふれた部分だ。晩年寺田さんは少年の心を失ってゆく商業漫画誌に嫌気がさして、湘南の茅ヶ崎に移り住みほとんどマンガを描かなくなっていった。60歳を少し超えたところで死んだ。ずいぶん早い死だったのだ。その厭世的になった寺田さんを支え励ましたのが奥様の旺子さんだ。
その旺子さんについて川本さんはちらっと、でもとても大切なことを書いている。
《旺子さんは中村八大の妹である。寺田ヒロオの死は、兄八大の死の直後だった。》
なんて素敵なことか。あの「夢で逢いましょう」で私らにいっぱい歌をくれた、あの八大氏の妹が「スポーツマン金太郎」の作者の妻だなんて。いったい、どういう結びつきで〈アボーイ・ミーツ・ガール〉したのだろう。知りたい。そして、この義理の兄弟は会ったときはどんな会話を交わしていたのだろう。
こういう奇妙な偶然のような、人と人の結びつきに目が届いている川本さんに、読者はふかくふかーく共感してしまうのだ。
私は歴史をながめるとき、こういう「人間関係」の不思議さについとらわれ、そこからむくむくと妄想を掻き立てることが多い。例えば、織田信長―お市の方―千姫―秀頼。これは戦国の権謀術数がはたらいているからまだ偶然は強くない。現代でもずいぶん意外な人間関係がたくさんある。小松左京―高橋和巳は学友。富士正晴―伊東静雄―三島由紀夫。伊丹万作―伊丹十三―妹ゆかり―大江健三郎。三好達治―梶井基次郎―宇野千代。中原中也―小林秀雄―大岡昇平―富永太郎。こういう星雲状態の人間関係に私はとても興味をもつのだ。
最初の話にもどるが、中村八大には六大という兄がいてやっぱりジャズマンだった。植木等と仲が良く、植木のバンドでピアニストが足らなくなったとき相談したら、弟の八大を紹介されたと植木さんが語っていた。この中村兄弟姉妹を育てた親とは、いったいどういう人物だったのか、私はまた調べたくなるのだ。
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