中学生の思い出
雨の日曜日、朝寝しながら川本三郎さんの新しい本『旅先でビール』を読む。川本さんお得意の名もない町のぶらぶら歩きの記だ。
エッセイ(この場合、身辺雑記を指す)の真髄は、読者をのんびり、ゆったりした気持ちにさせることと川本さんは喝破している。そのおすそ分けをいただき私も寝床の中でごろごろしながら、川本さんの旅のエッセイをここちよく味わっている。
「尾久駅」というエッセイで、操車場や寝台特急「北陸」など列車の話が出てくる。ふっと昔の蒸気機関車時代を思い出した。中学の頃、北陸線にはまだSLが走っていた(と思うが、ひょっとすると気動車だったかもしれない)。窓は自由に開閉できたし、デッキのドアは手動だった。トンネルに入って窓を開け放しておくと、よく眼に石炭ガラが入って往生したものだ。
中学のクラブの遠征で福井まで行ったことがある。行きは担任に引率されたが帰りは自由行動だった。福井のだるま屋で貸し本マンガの『街』を買って夕方遅い電車でホッタ君と敦賀へ帰った。車中二人ははしゃいでいた。デッキに立って進行方向に顔を向けるとぐんぐん風が切れた。
ホッタ君がデッキから身体を大きくのり出した。そのうち片手を離して得意げに身体をゆらゆらさせる。対抗列車がゴーッと通過した途端、ホッタ君の姿が消えた。慌てた。「落ちた?!」
おーい、と言う声がした。隣のデッキにホッタ君はぶら下がっていた。通過する列車の風圧で隣まで流され、たまたまそこにあったデッキの取っ手を掴んだのだと、彼は言う。信じられない軽業だ。今もそれが事実であったかどうか分からない、が、たしかにホッタ君は目の前から消えて隣のデッキにぶら下がっていたのだ。
一歩間違えれば惨事だったのだが、二人ともことの重大が分かっておらず、「アムナカッタナア」と顔を見合わせるだけだった。当時、デッキに片手でぶら下がるなんてことはよくやっていたので、そんなものだろうと思っていたのだった。
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