ユカ姫、もっとぶっ飛ばせ
作家の子供も作家というケースは多い。池澤夏樹や大岡玲、女性でいえば江国香織、吉本ばなな。小説でなくエッセーなら檀ふみ、阿川佐和子や藤原正彦と、その数知れず。皆話も面白ければ文章もうまい。檀ふみ、阿川佐和子らは本職は別にありながらユーモアがにじむ筆使いまで備えている。血は争えない。
斎藤由香も幸福なその一人だろう。しかも彼女の場合、祖父斎藤茂吉、父北杜夫とDNAは二乗の効果をもたらす。
彼女のエッセー『窓際OL,トホホな夜ウフフな朝』を1年前に読んですっかりファンになった。OLとしての日常を描いた作品は、あまりの馬鹿馬鹿しさにあきれるやら感心するやら、さすがマンボーの娘と感じ入った。
サントリーの健康食品事業部に勤めているユカは健康食品「マカ」の自称キャンペーンガールだ。マカというのは精力増強剤である。この新しい商品を売り込む様子が前作ではテンコ盛で書かれていた。商品が商品だけにあられもない話があけすけに、この深窓の令嬢の口から飛び出してくる。おまけに職場の人間模様もここまで書いて大丈夫かと心配したくなるほど、駄目上司や変わり者研究員が次ぎ次と登場する。
昔からやんごとない方の下々の体験というのは物語のパターンの一つではある。特に姫君ものでは、「ローマの休日」の王女とあんみつ姫が燦然と輝く。窓際OLユカ姫も堂々その王道を走っていた。
今回、新しく出た続編『窓際OL、会社はいつもてんやわんや』もおおいに期待した。目次を見ても「蹴りたいチンポ」などと過激な字がある。ぱらぱらセリフに目を通すと「硬化バツグン!愚息ムクムク」など活字が躍っている。
一読。おもしろくない。つまらない。前作にそこはかとなく漂うユーモアが、今回は押し付けがましいくらい馬鹿ばなしになった。特に海外出張の篇などは、単なるOLの旅行記でしかない。ナンデイ、ビギナーズラックカヨ
血統で能力は決まらないと知って馬の骨としては安心した、と嫌味の一つも言ってみたくなる。
でも当のご本人もそういう口さがない連中がこの世にはいることをようくご存知のようで、以下のようなエピソードを書いてもいる。
これも2世落語家の林家こぶ平のユーモアをユカ姫は紹介しているのだ。
《「競走馬とかけて、林家こぶ平と解く」
「その心は?」
「血統だけでは走らない」うまい!》
このうまい、という掛け声はユカ姫でありまする。姫、なかなかやりますなあ。それじゃあ次作に期待しようかな。
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