命のはてのうすあかり
部屋を掃除した。買い込んだままの本がそこらじゅうに広がり、足の踏み場もない。
一通り片付いたものの十分とはいえない。残りは明日にしよう。
寒いからスコットランドで買ってきたウィスキーをちょっと飲む。五臓六腑に染みとおる。
呑みながら庭を見ると、菊も枯れて冬ざれている。その中に冬の芽を出しているのがいる。たぶんチューリップだろう。頭をきちんと揃えてお行儀よく並んでいる。たったこれだけのことだが嬉しいものだ。
冬芽という季語はない。ただ日常的に使うのだが、あってもいいのに。歳時記には冬萌えという語があった。冬の暖かい日に思いがけぬ木の芽が萌え出すことを言う。最近、「萌え」という語がオタク的に使われるので、うちはこの言葉、よう好かん。
穏やかな歳末だ。空を仰ぐとゆっくり雲が甲州の方へ流れていく。こういうときに旅仕度する芭蕉という人はどういう人だったのか。やっぱり片雲に誘われてか、そぞろ神がとりついてか。
年くれぬ笠着て草鞋はきながら
年の暮れにふさわしいのは久保田万太郎だろう。生前会っていたらさぞ嫌な親父かと思うが、彼の晩年の句はどれもいい。
すっぽんもふぐもきらひや年の暮れ
蛸と芝居は血をあらす、と万太郎は言ったそうだ。臆病なくせにさびし好き。その人の絶唱はやはりこの句だろう。
湯豆腐や、いのちのはてのうすあかり
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追伸:一昨日、ユン監督がウィーンへ旅立った。いよいよ「春のワルツ」のクライマックスシーンを撮影するためだ。監督は今このことで頭がいっぱいみたいだ。いいなあ。早く見たいな。