大磯逍遥
五日ぶりに大磯にもどった。空は青く澄んでいる。2片の雲が浮かんでいた。
冬場はちぎれ雲が多いことに最近になって気が付いた。
大磯駅から裏道をぬける。大手自動車会社の保養所前の銀杏もすっかり葉を落としていた。道ばたに落葉がうずたかく積もっている。
ツヴァイクの山道へ入るとすぐ小高い石垣がある。人家跡がかすかに残る野原だ。そこから海が一望だ。今日はあまりによく晴れて正面の伊豆大島や伊豆半島突端まで見晴るかす。年に数回しかない日和だ。江ノ島や三浦半島はよく見えすぎて区別がつかない。
かすかに大島がみえる
伊豆の先端が見える
品川からの電車で60代半ばと思われる職人風の酩酊者がいた。彼の向かいには幼女二人を連れた母親が座っていた。幼女たちはあどけない声でプリクラの写真の値踏みをしていた。前の席から「可愛いねえ」とその職人が二人に声をかける。驚いて母の顔を見る女の子たち。母は少し困った顔でうなずいている。大磯駅に着いたのでドアから私は降りかけた。背後で酩酊した人物は立ち上がった。職人はどうやら女の子たちにお金を少しあげたいと思ったらしい。若い母親が「困ります。そんな・・」と言っている声だけが後ろで聞こえた。振り向くと、男は「いや、誰にもやれないようなものだから、気にしないでいいんだ」と強引に押し込んだ。母は当惑していた。そのまま電車は去った。
酔っ払って小遣いを呉れてやるといった人物は昔はいたものだ。貧乏なくせに小金をもつと誰彼かまわず酔っ払って小遣いを渡す。気が大きくなっているから、あまり無下に断ると怒り出す。酔いから覚めると金がなくてピーピーしていた。そうして、そういう人物はたいてい家庭に恵まれないことが多かった。北国の町の立飲み屋でよく見かけた光景をひさしぶりに思い出し、人のよさそうなあの人物に少し同情した。
ツヴァイクの道の半ば、雑木林まで来ると、山鳥の声が騒がしい。すっかり冬がきている。昔作った句を思い出した。
山鳥の影追いやすし冬の森
手前に江ノ島、奥が三浦半島
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