「冬のソナタ」ミュージカル下見

今朝は寒い。明日から2日にわたって「冬のソナタ」ミュージカルの下見のため韓国ソウルへ行く。もっと寒いことだろう。昨年竜平のスキー場に行ったときは本当に身を切られるような寒さを味わったものだ。
来年1月、札幌で公開されるミュージカル版「冬のソナタ」。ユン監督が自ら芸術総監督を勤める。その最後の稽古が厳寒のソウルで行われている。進捗具合を知るために明日金浦へ飛ぶ。
1980年代後半、韓国はオリンピックを開催した自信とともに急速に高度成長を始めた。
ソウルを流れる漢江の南部区域、江南(カンナム)には巨大なビルやマンション、ショッピングセンターが林立するようになり、ニューリッチと呼ばれる新しい階層が生まれた。彼らは従来の伝統的な儒教家族社会とは距離をもち、核家族を中心とした新しいライフスタイルを作っていった。
1987年に村上春樹の『ノルウェイの森』が出版され、日本で大評判となる。日をおかず韓国でも海賊版の翻訳が出たが最初はそれほど反響はなかった。ところが、正式に韓国の出版社から『喪失の時代』という題であらためて発売されると爆発的なベストセラーになった。この作品の影響をうけた韓国の小説家たちを「ハルキ世代」と呼ぶほど、若者に大きな影響を与えた。
当時32歳のユン・ソクホはこのハルキ世代より少し年長になるが、大きな影響を受けたことには変わりがない。
それまでに広まってた日本文学とは一線を画するハルキ現象は、ちょうど韓国の高度成長の時期と重なり新しい文化の流れを作り出していった。
現代韓国に精通している四方田犬彦は、こう語っている。
《『喪失の時代』の翻訳は韓国の若い小説家たちに、都市の単身生活者を主人公にすることを示唆し、そのために必要とされる文体見本を提供した。これまで息子であるか、でなければ兄か夫か、父親でなければいけなかった韓国小説の男性主人公は、ここではじめて匿名性のシティライフを享受し、家族や地位に束縛されない何もない地点から独白を始めることができるようになったのである。》(『ソウルの風景』岩波書店)
韓国の伝統社会から解放された都市生活を描くことができる新しい世代、その大きな流れの中に、若き日のユン・ソクホはいたのである。
後年、「冬のソナタ」でユンは力を存分に発揮することになる。主人公は男性ではなく女性のユジン。インテリアデザイナーというキャリアを持っている。実家のある春川を離れてソウルで友達と暮らす都市生活者という設定。ユジンはよく涙を流したが、けっして生き方は他人任せでなく自分で決めていく人物だった。それまでの韓国伝統の儒教文化とはかなり隔たったドラマを、ユンは作り始めたのだ。
一度、ユン監督に村上春樹は好きですかと聞いたことがある。「もちろん」と勢いよく答えた。特に『ノルウェイの森』は大好きで、「突然、空から雨が降ってくる、あのシーンは心に深く刻まれています」と目を輝かせた。
ハルキ現象から生まれたと言っても過言ではない「冬のソナタ」。それがテレビドラマとして昨年は日本中を席捲した。来年は新しくミュージカルとして生まれ変わり、新しいファンタジーとして日本に登場してくるのだ。その産声のようなものを聞きに、私は明日ソウルに向う。マネージャーのチョさんにお土産を買っていかなくては。
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