去りし月日も美しく
「荷下ろし鬱」という言葉を初めて知った。
《定年を迎えて長年勤めた会社を辞めた人が「荷おろしウツ」に罹ることがある。仕事のみに傾倒し、家族や趣味など仕事以外の柱を持たない人がなりやすく、急に「自分には存在価値がない」という思いに駆られてしまう」鬱症状》
加えて、コロナによる巣ごもりが余計に鬱症状を悪化させているらしい。
自分では仕事人間ではなかったと思っているが、家族からはそんなはずはありえないと否定される。そういえば心当たりがないでもない。仕事人間だったから、趣味といえば読書と映画鑑賞しか見当たらず、他者との出会いもせず、せいぜい図書館の渡りを繰り返すだけの今の境涯だ。品川区五反田図書館、目黒区中央図書館、港区高輪図書館、渋谷区中央図書館の読書カード4枚を持っている。平均7冊借りるから常時28冊の本を傍らに置いている。週に3冊読了のペースなので、いつも返却日超過の状態にあり、延長の処理をすることになる。これぐらいが荷下ろし鬱から逃れる手立てだが、人によってはしょっちゅう元の職場を訪ねて鬱逃れようとする輩もいる。年に1度か2度なら元職場もウェルカムだが、毎週のように来られると対応するのも面倒になりおまけに先輩面されるのも不快になってくるというのが後輩たちの人情。苦情がネットの相談室に寄せられていた。以て他山の石。
今、制作会社に身を置いて年に1本か2本番組を作っている。週のうち2日ほどオフィスに行って、ネタのリサーチや取材のアポ取りなどを行っている。現役時代属していた番組制作の古巣でなく報道系の番組制作会社に席を置いている。新しい会社に入ったようなもので、周りは初めて出会う人たちばかり、新しい人間関係を生きている。当然、職場の1年生の身だから総務的な事柄は周りから教えてもらうことになる。私はせいぜい番組作りのノウハウを持っているしか取り柄がない。卑屈ではないが、かなり年少のディレクターでもため口はしない。最初は窮屈だなと思ったが、考えてみればなれ合いでもなく他人行儀でもなく、上下のないフラットな付き合いになる。これが3年続いた理由であろうか。
まもなく年度末。人事異動や新番組作りの時期に入っていく。新しい年度に私自身がサバイバルできるような企画は今のところ持ってない。先行きどうなるか分からない。職場を失くすかもしれない。なくなって、毎日自宅で散歩と読書は辛いが、これもまた人生。C'est la vie。
先日、ある方から、このブログで父(故人)のことを思い出してくれてありがとうというコメントを頂いた。思いがけなかった。嬉しかった。40年前の交友だが私にとって大切な人で大事な思い出だ。そうだ、去っていった友や知人のことを文字で記録しようと思いついた。よかったら三須さんの息子さん、再度、連絡いただけませんか。待っています。
吉屋信子の句。
初ごよみ知らぬ月日は美しく
新年初頭に、これから来る月日はどうなるか分からないが、何かが待っていると期待に胸を膨らます様を描いた句だ。だがさらに深く考えれば、去った月日もまた美しい。苦しかったこと、悲しかったことも覚えてはいるが、今となってみればそれもまた美しい。
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