忘れないうちに書いておこう
2年前に、私は「祖父夏目漱石~『猫』誕生百年~」という番組を作ったことがある。
番組のきっかけは、夏目房之介さんの実家で父純一の遺品の中から、わがチームが漱石の「文学論」ノート2冊を発見したことから始まった。このノートとは現在『文学論』として発表されているものの原型になるもので、作家漱石の誕生以前に書かれたものだ。
1900年、出来たばかりの新政府の官費留学生として大きな期待を背負って、漱石はロンドンに赴いた。西洋の文学とはいかなるものかを調べる役目を担っていた。ところが思うように実績をあげることができず漱石は神経衰弱になってしまう。どこへも行かず、漱石は下宿に閉じこもる。次第に漱石は狂ったと噂されるようになる。「夏目狂せり」在ロンドン日本人の中の噂が、遠く日本の文部省に届くことになる。文豪漱石のもっとも苦しい時代の一つで、いまだに謎が多くあるといわれる時代だ。
私の番組はその謎を少しでも解こうと、孫の房之介さんを探偵にして漱石像を追った。
この文学論ノートは、漱石がロンドンに留学して2年目の1901年に書かれている。
実は下宿の部屋に閉じこもったままこのノートを書いていたのだ。
そして、この留学の終わりに近づいた頃、漱石は一人でスコットランドの小さな町を訪ねている。そこで、文学への志[男子一生の仕事]を立てたと思われるのだ。妻鏡子(房之介の祖母)へあてて書かれた漱石の手紙から、房之介さんはこの番組でそういう推理を打ち出した。
私の番組は漱石の一端を解いたにすぎなかった。まだイギリス時代の彼の動静は謎に満ちている。私にとっては、漱石が最後に訪れたスコットランドの小さな町のことが、今回の旅を通してより気になり始めた。
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