父から呼ばれた私の名
グラスゴーのホテルで仮眠をとった。わずか1時間足らずだが夢を見た。といっても映像はない。亡くなった父の気配を感じて目が覚めた。側にいるような気がした。
この数年父のことを忘れていた。父は11年前ガンで死んだ。70歳だった。生存中はうるさい存在だった。気が小さいくせに威張っていた(まるで、私ではないか)
幼稚園の頃、父と銭湯へ行った。頭を洗ってもらったとき、耳に水が入った。すぐに父は私の耳を吸った。恥ずかしかった。風呂からあがってもまだ耳の中がごろごろしていた。気にしていると、父が「片足をあげてとんとんしろ」とにらみながら言った。きまりが悪いと感じた私は黙って突っ立っていた。「早くやれ、水が奥までいったらどうする」と父が怒鳴り,私の体を傾けようと押した。私は下を向いて唇を噛んだ。
それが原因で私は中耳炎を患う。小学校の高学年になるまでミミダレが出た。不快感とともに原因を作った父を憎んだ。
今となっては父の気持がわかる。我が子に耳に水が入ってうろたえたのだ。自分の無力さに苛立って私を叱ったのだ。私の名前を呼び捨てにして怒鳴った声――。
父が死んで以来、私の名を呼びながら叱る人はいなくなった。グラスゴーで、私は父から怒鳴られた気がして目が覚めた。誰もいない。
私は自分の名を声にだしてみた。自分を叱るように呼んでみた。
私の声の中に、私を叱る父の声が聞こえた。
来られた記念に下のランキングをクリックして行ってくれませんか
人気blogランキング