日本SFのレゲンデ
本日は寒さも少し緩み、青空が見えた。はるばる護国寺まで行った。講談社のある町だ。その音羽の町内にSF作家で評論家の石川喬司さんが住んでいる。今年90歳になられる。日本SF界の草分けである。あの1963年に日本SF作家クラブが創設されたときのメンバーの一人。そこに小松左京、星新一らに混じって大伴昌司がいた。私は大伴の番組を作った縁から石川さんと知り合い、その後長く交流してきた。ところが、10年ほど前から石川さんは現役を退き、なかなかお会いする機会が減っていった。でも講談社に用事があるときなど、途中で会いに行った。「もうすっかりボケてね」と口癖のように言うのだが、話を聞き出すと、昭和60年代のSF界の出来事を克明に語るのだ。あの小松左京や星、さらに筒井康隆などの巨匠たちの伝説がよみがえる。思いがけない文壇のエピソードなどを聞いて胸を轟かせた。この僥倖を味わいたくて、私は石川さんをときどき訪ねてきた。
「今起きたばかりでね」と照れながら現れた先生。私の顔をしげしげと見て、「いやあいい顔になったね。頼もしいよ、こんな男性になって」と思いがけない言葉をかけてくださった。自分らの世代はほとんど昇天した。憎まれ口をきく相手もいない。しかし、2世代下のあなたらはまだ現役。しかも表現することを50年近くやってきて実績もある。そういうものが相まっていい顔を作り出したんだよ、と先生は褒めてくださった。照れくさいし、そんなはずはないと否定したが、石川さんは嬉しそうに私の顔を正面からじっと見てくださった。「ぼくは小説家だから嘘はいわないよ」と矛盾した言葉を発する先生。だって、作家は「嘘」を書くではないか。それが仕事だろうと内心思ったものの、誉め言葉が気持ちよくて、つい私も顔がほころんだ。なんだか、隠居の先生を励ましに行って、逆に先生に生きる意欲を賦活された気分だ。