うろこ雲
日曜の昼下がり、猫王(ねこおう)さんから電話が入った。この夏の初めに体調を壊して入院していたときいていたが、恢復したという吉報でも語るのかと期待した。
猫王さんは日本ロックシーンの一線を走ってきた伝説的な人物だ。今年78歳になるのかと思うが、根っからのロッカーで規格外れのつっぱった音楽番組を数多く作ってきた。あの「ヤングミュージックショー」の生みの親であり育ての親だ。クィーンの引退直前の日本公演も収録して名作の誉れ高い。デビッド・ボウイも来日するたびすぐ猫王はどうしていると消息を聞いたという伝説がある。昔からロングヘアーにロンドンブーツで局内を闊歩していた。老化して前髪が薄くなり、だんだん落ち武者風貌に変化したのはご愛敬。
私は50を過ぎて猫王さんと友達になった。その頃は「滝のアリア」というヘンテコなドキュメンタリーもどきの作品を作っていたが、相変わらず常人には分からないスタイルの音楽番組を制作するなどロッカーのspiritは貫いていた。当時猫王が65歳の頃のことだ。
この人はなかなかの教養人で俳句を嗜んでいて、目黒遊俳クラブの同人だった。その頃私も俳句に関心があって、猫王さんの紹介でそのクラブに参加した。以来5年ほど句会で交流することになる。
風のほか客の来ぬ日の瓢(ふくべ)かな 猫王
20年前は渋谷の都心に住んでいたが、猫を複数飼っていた。数が増えて20匹を越えて、大家さんから引導を渡され追い出された。引っ越しするたびに都心から外れていく。小田急沿線を徐々に下っていき、現在秦野に一軒家を建てて奥さんと20匹の猫と暮らしている。ところが梅雨の頃に奥さんとけんかして、奥さんは出て行った。今ひとりで猫の面倒を見ているのだが、入院することになって、その猫の面倒を誰がみるのかということでいろいろあったらしい。
今年の暑い夏がたたったようで、目まいがするようになり、とうとう8月末に入院した、と噂を聞いた。
そして、本日の電話となる。「元気?」と呼びかける声は張りがあって、ああ無事なんだ
と安堵したが、次のセリフが猫王らしくないので驚いた。「淋しい、淋しいんだ。夜中など
目が覚めると心底淋しい」いったい何があったのか、猫王。
注:猫王は俳号。
うろこ雲人はさびしき終(つい)の宿 登羊亭
追加注:猫王ではなく猫翁だった。午後9時を回って気がついた。
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