ごった煮、4題
日曜日、曇り。庭に来る鳥の声がさむい。二日間、家にいてビデオを見、本を読み、妄想を描いている。一つの主題に話が収斂していかないから、思いつくまま話をごった煮にしてみる。
大磯の家は10年前に建てた。谷間をエーゲ海に見立てた漆喰の家だ。洒落たデザインで喜んだのもすぐ、雨季に入って雨漏りが起きた。落胆し、設計した建築家とも疎遠になった。4年前から居間の隅に雨漏りの沁みがつき、少しづつ濃くなった。この家をなかなか好きになれなかった。
今年の梅雨は、私自身落ち込んでいたから雨漏りなど気にする暇がなかった。例年以上に雨は降ったが、沁みは広がらなかった。
そのことに秋の終わりになって気づいた。少し、家に親愛を抱いた。
数日前、家人が玄関でちびを連れたヤモリの親子を見つけた。ヤモリがいることは前から知っていたが、子供が生まれたことは驚きだった。何だか嬉しくなった。ヤモリは守宮と書く。家の守り神だ。この家に10年住んで、やっと私は家と和解できたのかもしれない。
アイルランドの映画で実話をドラマ化した「ヴェロニカ・ゲリン」を見た。同名の女性記者が麻薬犯罪に取り組み、ついには暗殺されるというストーリーだ。この事件を契機に憲法が改正され、組織は解体され麻薬王たちは国外追放になったという。社会派の映画だが、押し付けがましいところが少なく、物語の展開もスムースな良い映画だった。
何より、ヒロインを演じたケイト・ブランシェットが良かった。オーストラリア出身の彼女が演じるのだが、インディペンダントなアイルランド女性をよく演じ実に好感を抱かせる役作りをしていた。特典のインタビューでも語っていたが、社会の悪に立ち向かう人間の勇気と恐怖をよく理解していた。ケイト自身の話し方も知性的だ。イギリスなどヨーロッパにはこういう役者がいる、たしかにいる。以前感動した「ジュリア」に出演したバネッサ・レッドグレープがそうだった。
同じ系統の本を2冊読んでいる。『天才監督 木下恵介』(長部日出雄)と『純情無頼・小説阪東妻三郎』(高橋治)。この2冊に同じエピソードが出てくる。木下監督阪妻主演「破れ太鼓」。時代劇の気分で現代劇を演じた阪妻は新しい境地を開くことになる映画だ。長部のほうが伝記として詳しく精緻だが、読み物としては高橋のほうが面白い。それは、高橋の主観がかなり入り混じっていて、独断にあきれながら、その世界に引きずりこまれてしまう。そうか、そういう表現もありか。
図々しいことを承知で書くが、黒澤と小津と木下のどれになりたいかと言われたら、気質的に木下と、私は答えるだろう。「野菊のごとく君なりき」「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾年月」という<感傷性>は、私を捉えて放さない。
私の住むもみじ山の麓に、3人の有名人の居宅がある。一つは、昨年亡くなった、画家の加山又造さんのアトリエと自宅。2つめは、広大な安田善次郎邸。安田財閥の盟主で暗殺された伝説的な人物の家だ。東大の安田講堂を寄付したのでも知られている。オノ・ヨーコさんの祖父にもあたる。以前、オノさんとノルウェーに行ったとき、大磯の祖父の家が話題になったことがある。私が近くに住んでいるということで、急速に親しくなった。
3つめは、最近知ったのだが福田恒存宅だ。劇作家で劇団「雲」の創設者。生前は保守の論客として高名で私は好きではなかった。黛敏郎らと並んで、学生仲間では悪名高かった。だから著書なども読んだことがない。町の図書館に数冊所蔵されているのを知り手にとってみた。一度ぐらい読んでみるかなあ。
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