手袋をぬく人――川口松太郎
今どき、川口松太郎や小島政二郎などという名前を口にしても
知っている人は少ないだろう。最近、この二人の小説やエッセーをよく読むのだ。
川口の名前を知ったのはたしか中学の頃で、「朝日新聞」に連載小説「新吾十番勝負」を書いていたときだ。これは、大川橋蔵が映画で主演しておおいに話題になっていて、私も初めて新聞小説というものを読むことになる。
この人の周りは華やかだった。なにしろ川口自身大映の重役を勤めた。妻や息子娘は皆俳優で芸能界に顔が利いた。美空ひばりの出る芝居の脚本を書いたりもして、芸能界に出入りする「座付き作家」といったぐらいにしか私は見ていなかった。
でも、この人の家族特に子供たちが次ぎ次に早世することになる。落胆し車椅子で表れた川口を見てずいぶん憔悴したなと思ったことがある。さらに妻の三益愛子が亡くなるにおよんで、見る影もなくなった。「二度と、人間には生まれたくない」と川口が語ったと聴いて驚いた。
その川口がある女性編集者が定年で去るときに送った言葉を、今日読んだ。
《ありがとう。人間の生涯は愛別離苦のくりかえしです。後半生のお仕合わせであるように祈ります。》
そして添えられた一句に、私の心は揺れた。
手袋を ぬいて握りし 別れかな
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