山茶花
先週、まだ冷え込みが始まっていなかった日のことだ、道ばたの山茶花が突如ハラハラと白い花をまき散らした。夕暮れが近かった頃だ。
山茶花の在りし高さや香のフーガ
これほどキツイ香りを山茶花が残すとは思わなかった。楚々とした風情で秋風に揺れるほどの仕草しか出来ない弱虫と侮っていた自分が恥ずかしい。そういえばだが、この花は開花してからなかなか花が散らないしぶとさを持っていたことにも気づいた。
花が散ったあと、辺りに強烈なあまい香りを残した。若い女ではなく、年増の「あまさ」だ。ぎょっとした。ここにいたことを忘れちゃいやだよと伝法な女が語っているかのように。語るのは山茶花の木なのかそれとも一枚一枚の花びらなのか-。
散った後から香りが立ち上がる。まるでフーガ(遁走曲)だ。
「面影」のように、非存在が存在として立ち現れる詩歌の名作はけっして少なくない。蕪村には2つもあって有名だ。
ちりて後おもかげにたつ牡丹かな
いかのぼりきのふの空のありどころ
こんな巨匠と並べるのも烏滸がましいが、前からこの仕掛けをやってみたいと考えていた。すると近所の家の前栽の山茶花が眼前で散ってみせた。
この時期、銀杏の大量自決にばかり目を奪われていたが、今秋は思いがけない眼福に遭遇。
六十路に入ってから、さるすべりや山茶花といった木の花に惹かれることが増えた。おのが自身も木の葉髪になっていくからかなあ。
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