熊田千佳慕さんから聞いた話
ぬか雨が降っている。こんな雨を見ると、絵本作家、熊田千佳慕さんから聞いた話を思い出す。
秋の終わり、冷たい雨が降ると、あげは蝶が大きな葉っぱの裏にひっそりとまっている光景を目にする。
夏の間の華麗な姿は消え、ぼろぼろになった羽を背負った蝶が、じっと耐えている。この世でこれほど悲しいものはないと、世界的昆虫画家、熊田さんは語っていた。
年をとって1つだけ得意技を身に付けた。中年の男女を見ると、その人の若かった頃の顔が思い浮かぶということ。
若い頃、老人を見ても、この顔は昔からこういう顔としか思えなかった。想像力が働かなかった。だが自分も50まで生き延びると、同世代が刻々変化していくのを目撃する。変化を身をもって知った。昔見たり知ったりした顔と、久しぶりに会ってその変化に驚いたこともたびたびある。
逆に、現在の顔で、魔法使いのおばあさんのような顔の女性も、若い頃は目鼻立ちのくっきりしたバタ臭い美人だったんだろうなあと想像できるようになったのだ。
苦しいのは、年をとってもジタバタして若作りしている人だ。いつまでも異性にちやほやされたことを意識している、「昔美人」だ。まるでおんぼろ蝶の悲しみを見るようだ。
綾小路きみまろの漫談ではないが、美人も不美人も50まで、50過ぎたらみんな同じ。
熊田さんの番組「私は虫である」を制作したのは、ちょうどバブル真っ盛りだった。そんな巷を低く見て、熊田さんは横浜の「あばら家」に住んで超然と、昆虫画を描いていた。不思議な人だった。私の番組が出たあと、いろいろなメディアで取り上げられるようになる。今では黒柳徹子さんとCMに出るほどだ。
「私は虫である」を制作したディレクターは、入社して1年目の新人だった。彼の熱い思いや熊田夫妻の生きかたについては、いつか書きたいと思っている。

熊田さんは道端で昆虫を見ると夢中になる。腹ばいになる。そうやっていたため、行き倒れの老人に間違われたこともよくあったという。
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