藤沢周平の句
藤沢が胸を病んで療養所に入ったとき、俳句を熱心にひねったことはよく知られている。
静岡を本部とする同人「海坂」に参加したことから、あの海坂藩ができたと聞く。
なかなかの腕前だが、以下私の選んだ、周平句集。
聖書借り来し畑道や春の虹
まくなぎや小さき町が灯をともす
アカザのぶ野をひはの群わたりけり
大松原風鳴りやみて夕焼来
落葉無心に降るやチェホフ読む窓に
野をわれを霙うつなり打たれゆく
療養句らしい環境がみえる。だが環境はかならずしも藤沢にとりて好もしいことばかりとはかぎらない。療養所の婦長への付け届けをすすめられて、はたと驚愕し納得するも
自分では工作もできず、他の人の手を借りることとなる。などという世間をも知る場所と療養所はなった。彼はそういう人の世の芥を経験して、人を見る目のシニカルな部分はたしかにあるも、根本では人とは信ずるに足る存在として書ききっている。そのことに頭がさがる。
周平の句も小説も、叙景のすばらしさ。天然自然が広いし高い。
ちょうど今頃の秋天の高さにも似ている。
とここまで昨夜書いた。会社のパソコンを開くと、友人が映画「蝉しぐれ」を見たが期待はずれだったと告げていた。監督が映像に酔っているというきつい批評だ。うーむ。
どうもそれはあり得る事だ。念願の映像化が叶って藤沢ワールドをできるだけ再現したいと頑張ったのではないか。文四郎とおふくの交流が後回しになってはいないだろうか。
私なんかはそうだが、企画が実現できると、全部描こうとか大きな構図に仕立てようとかしてしまう。あるものは割愛しないと、「尺」(映画の長さ)に入りきらない。黒土監督も欲張ってはいないだろうか。
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