向井去来
相模川の鉄橋を渡ると、土手一面に白く薄(ススキ)がなびいていた。すっかり秋だ。
23年前、長崎で勤務していた頃、向井去来の句をもとに「穂影の人」という番組を制作したことがある。
君が手もまじる成へ(なるべ)しはな薄(すすき) (猿蓑に所収)
長崎郊外日見峠に去来のこの句を刻んだ碑がある。薄塚と呼ばれる。
向井去来は、慶安4年、長崎の後興善町(うしろこうぜんまち)で生まれた。8歳の時、父に連れられて京都へ移った。松尾芭蕉の高弟で、西の俳諧奉行とまでいわれた向井去来が、郷里の長崎へ帰ったのは、元禄2年、秋のこと。31年ぶりの故郷行だった。産土(うぶすな)に甘えるようにして遊んだ後、去来は旧長崎街道のこの峠を越えて帰っていく。縁者や門人たちもここまで来て、去来を見送った。
去来さんは「どちらさまもご機嫌よろしくまたお会いしましょう。さればこれにて」とでも言って、峠を海が見える地点まで下って行った。振り向くと、薄の穂影にまじって人々が手を振っている。まるで別れを惜しむかのようにススキも風に吹かれて揺れる。――
この場面を映像化したくて、半ドラマに仕立てて撮影した。番組の監修には長崎の歴史家中西啓先生にお願いした。本業は内科医だがシーボルト研究で知られる、長崎学の権威でもある。『長崎のオランダ医たち』という岩波新書を著している。

日見峠
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