何でも買える不自由
就職の決まった学生が研究室で話していた。「初任給の提示を受けたら、何でも買える気になってきたわ。1万する時計でも服でも、何でもやでえ」
可愛いものだ。1万円の時計が夢だったなんて。そういえば、京都出身のライターの口癖があった。「買(こ)うたる、買うたる、何でも買うたる。高島屋でも大丸でも何でも買うたる」といって大笑いする人だった。
昔月給をもらうと、昼飯を少しだけ贅沢したことを思い出した。曽根崎小学校裏のすし屋でイカマグロを食べるのだ。ビールも飲まずあがりだけだったが旨かった。
初めての冬のボーナスではダッフルコートを買った。学生の頃から欲しかったが高くて手が出なかったのだ。VANでなく1ランク上のkentというのが誇らしかった。就職して可処分所得ができるとあれもこれも思っていたが、いつからかそんな欲望も消えた。
この2年はいつも同じ黒のtheoryのジャケットとパンツを着ている。インナーが少し変るだけだが、それとて黒の半そでばかりだ。靴はPrada。履き易く軽く丈夫だ。海外ロケには最適なのだ。それぞれ単価はそれなりに高いが2年ほど使っていると元がとれる。買い換えたとて、また同じ黒。新しい形とか色に目がいかない。
内田教授が大学院の頃の愛読書に『メンズクラブ』をあげていた。金がはいったらあれも買おうこれも買おうと考えていたが、ワードローブが一通りそろったら熱が冷めたと書いていた。
私もまったく同じだ。あれも買えるこれも買えると思っているうちに、時は流れる。体形が変化する。髪が薄くなる。廉価な服だって紅顔の青少年のほうがはるかに美しい。いや、若いくせに高いもの着けている見苦しさより、はるかに格好いい。
何でも買えるというのはけっこう不自由なのだ。トクナガくん。
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