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25年も月日が流れて

黄金街にて

昨夜、トミさんと鷺ノ宮の立ち飲みで盃を交わした。久しぶりに見たトミさんはすっかり痩せていて心配したが、当人曰く「年に一度の検診では百点満点だ」だと。
立ち飲みのハイボールをお替りしながらトミさんは、日曜日の昼に8CHで放送されるドキュメンタリー番組を見てあげてと告げた。枠はザ・ノンフィクションで、ゴールデン街のマキちゃんが主人公のドキュメント。「せつなくて故郷 女になって47年目の帰郷」。3年前に放送したものを、マキちゃんの死を惜しんで、少しリメイクした作品を再放送するという。そこで、本日3月27日午後2時からの放送を視聴した。

3年前の76歳のマキちゃんの人生が描かれていた。映像には亡くなったとんぼの秋子さんも映っている。顔見知りの編集者やディレクターの仲間たちもいる。
マキちゃんとは25年近い付き合いだから、ドキュメントに登場する人たちも知っている顔ぶれが多いのは当然か。

マキちゃんの本名は敏雄、鹿児島の枕崎で少年時代を過ごしていた。女として男に好かれたいと願望を持っていたが田舎ゆえカミングアウトできない。やがて美容師になることを期して都会に出た。その後、性別適合の手術を受けて性を転換した。敏雄から真紀になったのだ。46年前のことだ。
その後、旧青線地帯のゴールデン街に身を置き、水商売に専念した。この間、マキは一度もふるさと枕崎に帰っていない。そこで、番組はマキの故郷行へと展開していく。ためらう彼女の後押しをしたのが、いっしょに店を手伝っていたつぐみさん。彼女は、マキちゃんの本心は故郷へ帰って老いた母と和解したいということだ、ということを見抜いていた。

 番組では、酩酊して吼える、歌う、踊る、悪態をつくマキちゃんのさまざまな顔が登場する。全部知っている。バブルの頃、トミさんや工藤さんたちと毎夜新宿で飲み明かし、その後秋子さんが五番街に店を出すようになってからは、そこを根城に夜の新宿に突撃したものだ。そのとき、口の悪いマキちゃんから「明後日おいで、とっとと出て行け!」と“激励”を受けた。

 忘れられないのは10年ほど前のことだ。わたしが高校時代に好意をいだいた女性とそのともだち4人をマキちゃんの店に連れていったことがある。金沢のミッションスクールを卒業した女性たちはいたって御淑やかでキャバレーどころかゲイバーなど行ったこともない。何事も経験だよと言いくるめて、ゴールデン街中央にあるマキの店を訪れた。

――この宵のマキちゃんはとびきり意地悪だった。かつこれまで見たこともないぐらい下品でハスッパだった。
目を丸くしている4人の淑女を相手に、マキちゃんは猥談はするは、胸を見せようとするは、悪態をつくは、狼藉のかぎりを尽くした。なぜ、こんなに悪ぶるのだろうと訝った。
 手ひどく恥をかかされたと思った私は、この日以降、マキちゃんと口をきかなくなった。半年ぐらい続いた。
 あるとき、とんぼに溜まっていると、マキちゃんが入ってきて哀願するではないか。「いつまで怒っているんだよ、アタシが悪かったから謝るよ。だからもういいじゃない」
これでは、謝っているのか威張っているのか分からん。

 大磯へ転居すると新宿から足が遠のく。いきおい、秋子さんやマキちゃんの顔を見ることも減った。
だが5年前から鍼灸で歌舞伎町のタケ先生にかかるようになると、帰路とんぼをのぞくこともあった。開店前の支度でどんなに忙しくとも秋子さんは必ず私をカウンターに座らせて、ビールをグラスに注いだ。そして互いの健康を祈って乾杯したものだ。そこへ大騒ぎしてマキちゃんが現れる。「アタシにも一杯ちょうだい」と強引にコップを手にとる。そんな面影が蘇る。

 今年の1月、秋子さんが逝き、旬日を隔てぬうちにマキちゃんが逝った。マキちゃんは80歳になっていた。
 合掌

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by yamato-y | 2016-03-27 15:59 | Comments(0)
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