多万華鏡
6時過ぎに目が覚めて窓外を見遣ると、一面銀世界となっていた。北陸のような重く暗い雲が立ちこめ、灰色の世界と言ったほうが適当かもしれない。幼い頃の冬に見た鬱陶しい雪の日を思い起こした。石油ストーブしか暖房がなく、布団から出るのをいつまでも躊躇っていると父親から怒声が来る。渋々起きて靴下を履いてもやはり布団から出たくない。促されて冷水でかおを洗うが、堪えきれない水の冷たさに声を上げた。軒端の氷柱の長さが恨めしい。
明け方苦しい夢を3本続けて見た。
旧知のニシヨ君の本拠地を私は訪ねた。そこは荒涼とした深い谷間の町の公団アパートだった。食事を終えて懇談をしようと屋外のリビングに場所を変えた。ニシヨ君とその連れ合いと私は四角いテーブルを挟んで言葉を交わした。恐怖で身体が強張っている。私はテーブルの端にしがみ付いている。足元が落ち着かずスウスウするので見ると、私たちはアパートの屋上のとんがり屋根の上にとどまり、そこにテーブルを広げていた。油断して手をはなすととんがり屋根から転落しかねない足場に腰掛けていた。手に汗がジワリと滲んでくる。ところが二シヨ君は平常の表情。怖くないのだろうか。
公団アパートを出て草原を横切っている。先頭に立って二シヨ君が草をかき分けている。野分が吹いて草が激しくなびいている。雲の流れも早い。私を置いてけぼりにしてニシヨ君はどんどん先を行き、あるところで立ち止まった。草の根方にでも何かを見つけたのだろう。と、突然、彼は姿を消した。急いでそこまで行ってみると、その場所から深い穴のように、峡谷が広がっていて、どうやらニシヨ君は下へ素早く降りていったようだ。
後を追おうとして逡巡した。その谷間の深さは30メートルはあろう、下まで降りるルートは2つしかない。一つは馬の背のような細い尾根道、鎖も手すりもない。峡谷の川まで垂直に落ち込んでいる。道幅は50センチほど。まるでロッククライミングのような恐怖感が沸き起こる。とても無理だ。
もう一つは反対側斜面に1メートル間隔で鉄製のホールドが谷底まで続いている。ただし、最初のホールドまで身体を乗り出して腕を伸ばさないと掴むことができない。その身体を谷に投げ出すという行為にまたしても身体が硬直してくる。途方に暮れてしまった。谷底からニシヨ君が声をかけてくる。意気地なしと見られるのも癪だが、怖いものは怖い。
トイレで目が覚めた。なんでこんな夢を見たのだろう。昨夕、寝しなに読んだ藤枝静男の幻想小説が祟ったのだろうか。
この出来事をくくるタイトルって何かと考えた。タマゲタという音が頭をよぎった。そこで「多万華」。
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