閉所は大嫌い
拘禁されることに対して恐怖がつよい。
かつて脳内出血を発症して病院のベッドに括りつけられたとき、意識をなくした私が暴れて
騒いだという。私は覚えていないが、周囲がそう言っている。
主治医はICU通過症候群だと診断した。仕事人間が突然集中治療室に放り込まれると
起こす症状らしい。
職業柄、取材、ロケ、交渉と私はよく動く。人並み以上にうごきまわる私が一度ベッドに押さえ込まれれば、意識をなくしてもその状況に反発するのはフシギではないだろう。
それにもまして、苦手なものが閉所空間に閉じ込められたときだ。
昨夕、このところの不調の原因を調べるためMRI検査を平塚市民病院で受けた。ここの
脳神経科に以前入院したことがあるので気楽に臨んだが、検査は失敗に終わった。
MRIという磁気装置で脳内をスキャンするのだが、その装置たるやまさに閉所空間だ。ミイラのように体を横たえて固定され、そのまま狭くて長い穴に入れられる。
検査技師は「できるだけ早く検査しますから。12分ぐらいで」といって、リモコンのスイッチを渡してくれた。「もし気分が悪くなったら、このスイッチを押してください」と真顔で言われた。
――顔がまず穴に入り、胸、腹とすっぽり押し込められてゆく。天井は目の上数センチの先にある。苦痛だ。「我慢、我慢」
MRIが動き始めた。電子音が穴の中に響く。断続的だからまだ耐えられる。3分ほど経過。
数を数えて気をそらすことにする。「1、2、3、・・・」
120ほど数えた頃から電子音が大きくなり、止むことはなくなった。手に汗を握る。
心臓が早鳴りし、胸部に圧迫感をもつ。2分耐えた。だめだ。
限界と思い、スイッチを押す。「どうしました!」と技師の声。スルスルと外へ引っ張り出される。「とてもこれ以上無理です」と言うと、「分りました。止めましょう」と撤収に入った。彼によれば、10人に一人は続けられない人がいるという。
検査室から出てくると、家人はあきれて「気が小さいんだから」と不満を述べる。違う。
肝っ玉の問題ではない。イメージの問題なのだ。
私には、あの電子の穴に入っていると、穴が次第に縮んでくる気がしてくる。そして穴が閉じてしまうイメージが、脳裏にくっきり浮かぶのだ。
父の葬儀を思い出す。火葬場で、父の棺が釜の中へ押しこまられるとき、吐き気がした。
頭から足先まで入ったところで、釜の蓋が閉じられた。ガチャン。そして点火。覗き穴から見ると炎がゆらりと上がった。(父はもうそこから出られない。例え生き返って叫んでも・・)
あの恐怖が、今も脳裏から去らない。
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