楽しいランデブー
昨日は、是枝裕和監督の課外授業のナレーション録りが赤坂であった。朝のうちは晴れていたが昼過ぎから豪雨となった。篠つく雨のなか、イマジカ赤坂のスタジオに駆け込んだのが午後1時。録音作業開始は午後2時。
約束の時間を5分過ぎたとき、ナレーターの樹木希林さんが姿を現した。高そうなミンクのコートを着ている。家が寒いので、室内着としてコートを着ているそうだ。炊事もそのコートを着たまま行うそうだ。やはり普通の人とはすこし違うかな。ネットの情報によれば、キリンさんは末期の全身ガンに侵されているというが、外観からもすこしも見えない。
是枝監督の作品に出演してから、どうもその作風、人柄を気にいったらしく、今回の「課外授業」のナレーションも自らやりたいと声をあげてくれたようだ。
すぐにリハーサルを兼ねてコメントの流し読みが始まったが、どうも声がやや小さくかつテンポも遅い。やはり70を過ぎて名優樹木希林も老いたかと思った。しかし、すぐそれは早計であったことを知る。台本の3分の2ほど過ぎると、番組の内容に惹かれたか、ぐいぐい朗読の勢いが増して来た。
いったん、休憩でアナルームから出て来たとき、キリンさんの冗句に調子を合わせて軽口をたたいてみると、キリンさんは嬉しそうに応える。
私はだんだん大胆になって、キリンさんのあれこれの注文に応える。スタッフのなかにも、キリンさんと仕事をシェアしている感覚がだんだん醸成されてきた。
結果、ナレーション録りはうまくいった。午後4時半。作業はすべて終わった。雨は相変わらず土砂降りだ。キリンさんが私に向かって言った。
「あなたは、どこまで行くの」。
「え、渋谷の放送センターまで」「じゃあ、私の車で送ってあげる。私んちはすぐそばのNだから」
そんなあつかましいことはできないから断りをいれると、キリンさんは「いいのよ、ついでだから気をつかわないで」と気安く声をかけてくれる。お言葉に甘えて、赤坂から渋谷神南までキリンさん御用達の車に同乗した。その間、先の衆院選挙や美智子妃殿下の噂で、私とキリンさんは話が盛り上がった。まったく偉ぶらないキリンさんの態度に、私のハートはすっかり参った。
ああ、これが伝説のキリンさんか、いつか、50年前見た「時間ですよ」の、あのジュリーのセリフが耳朶に流れるエクスタシーを、私は感じていた。
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