夏帽子の歌
ひとりで暮らしている母を訪ねると、たいてい話題は知人親戚の噂か短歌のこととなる。
11年前、父が死んで以来、これといった趣味も持たなかった母が初めてつかんだ趣味。
それが短歌だ。いや、生きがいと言っていいかもしれない。
最初は教会の婦人会で練習した。見よう見真似でやっていて師匠はない。あえて言えば
『信徒の友』の歌壇選者、三浦光世さんだ。作家三浦綾子さんの夫君でクリスチャン歌人だ。
三浦さんの歌風の波長とあったのか、母の歌がこの歌壇で次第に入選するようになった。それが
母の励みになった。
身の回りのことを歌い続けるうちにさらに投稿の範囲を広げ、NHK歌壇に投稿するようになった。
この歌壇では題詠が中心で、毎回2万の応募があり、うち6000ほど入選となる。そこへちょくちょく顔を出すようになった。25人の選者が秀作を25本選ぶ。そこから特選が3本でるのだ。
母は数年入選を繰り返す中で、少しづつ腕を上げたようだ。
先日、帰省したら、まっさきに「私の歌が秀作になったよ」と報告を受けた。他に自慢できる相手もいないので、息子の私に言いたかったのだろう。私はテレビを見てお茶漬けをかきこみながら、その話をふーんと聞いた。そんな態度も意に介さず、母は歌の説明をとくとくとしていた。
母の日に プレゼントされし 夏帽子 遺影の夫に 被りて見せぬ
これが秀作となった作品だ。少し気恥ずかしい気もするが、本人が喜んでいるならそれもいいか。
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