台本・ヤラセなし
少し前のことだが、Y新聞に、台本・ヤラセなしという見出しが躍っていた。
CS放送の「リアリティTV」というドキュメンタリー専門チャンネルの番組紹介記事だ。
深夜放送予定の「闇のマーケット~臓器移植の裏側」という番組を取り上げているのだが、その番組枠がかかげているキャッチフレーズ「台本・ヤラセなし」に引っかかった。
台本なしヤラセなしというのが本物ドキュメンタリーだと言わんばかりの表現。ちょっと待ってくれと言いたい。
ヤラセをやらないというのは当然のことだ。だが台本がないのがドキュメンタリーの要件というのはお門違いもいいところだ。どんな突撃取材でも必ず現場で起きる(または起こる)事象を予測しないで撮影録音するなどということはありえない。
だから撮影の事前に予定(予定は未定にして往々変更あり、という格言がある)の構成案を立てて現場に臨むのだ。この構成案はあくまで案であって、実際に起きた事象と食い違っていればその現実に合わせて内容を変更しつつ、撮影をすすめるというものだ。
まったくの構成案をもたないまま現場に入って、ディレクターはカメラマンに「まあ、適当に撮ってくれ」などという無責任な取材などはしないものだ。この構成案というものの存在なしで、やみくもに撮影してドキュメンタリー番組ができるものなら見せてほしい。
特に欧米系のドキュメンタリーは事前にかなり入念なリサーチをかけて取材に乗り込むのが制作スタイルだ。それをこの記事の筆者は、「リアルな映像と衝撃の中身には説得力がある。世界中の視聴者を相手にするチャンネルの底力を感じさせられる。」と手放しで賞賛している。どこに台本がなく撮影しているという保証があるのか。まったく与えられた情報を鵜呑みにした記事としか読めない。
世界中の人に誰でも分るという映像は、ぎゃくに周到に撮影構成されているからであって、まったく偶然に突撃的に撮影された映像などというものは、一見しても状況がよく分らないものが多いという実態がまるで分っていない。
そして、この筆者は日本のドキュメンタリーにくらべて欧米は優れているといわんばかり。むろん、日本でも安易なドキュメンタリーもどきの番組を制作している者がいることは否めない。だが、欧米系の作りこまれたスタイルでなく、時間をかけてチャンスを狙い続けて取材している、日本的じっくり型ドキュメンタリーをきちんと認識してもらいたい。
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