クリント・イーストウッドは永遠だ
本年度アカデミー賞4部門を独占した「ミリオンダラー・ベイビー」を見た。
おもしろかった。前評判の「流れる涙を誰も抑えることができない」というコピーから
想像していたのと違って、実に落ち着いた終幕を迎え感動した。
田舎から出てきたウェートレスのマギーは、ロスの小さなボクシングジムを訪ねる。そこのオーナーで伝説的カットマン、フランキー・ダンと出会う。この二人が困難をのりこえて世界チャンピオンとの対戦を実現するまでが、「前芝居」。本芝居は、この闘いで傷ついたマギーと、それを見守るフランキーの絆の物語。ネタバレ(仕掛けのストーリーをばらすこと)は
私の趣味ではないので、これ以上語ることは控える。ぜひ、劇場に足を運んで物語を味わうことをすすめたい。
イーストウッドの作品は演出であれ出演であれレベルが高いので、それほどハズレはないと信じている。が、近年やや手馴れてきて作品に「油が浮いている」ような読後感を感じることが多かった。昨年のイーストウッドが監督賞をとった「ミスティックリバー」にしてもそれほど感心しなかった。
本作は違っていた。実に映画としてすばらしいアートになっていた。まさにハリウッドの底力を感じさせるものだった。
脚本は良く出来ている。知的障害の青年デンジャーの話、マギーの貧しい実家、らのサイドストーリーも過不足なく描かれ、本筋を際立たせる素敵な構成となっている。
キャスティングも手堅い。主役、とりわけマギーを演じるヒラリー・スワンクの存在感は立派。難をいえば、パンチをヒットさせるときの動きがあまくカメラや編集で見せるのは、もう少しなんとかしてほしかった。でも、これだってレベル以上であることは言うまでもない。
モーガン・フリーマンはこういう脇役ははまりだ。「ショーシャンクの空に」でも見せた
しみる芝居は追随を許さない。一番印象に残ったのはマギーの母を演じたマーゴ・マーティンデルだった。貧しい白人家庭のいやしい初老の女は見事な演技だった。こういう人がハリウッドにはいるのだ。これが「聖林の底力」と、あらためて思う。
この映画では、アイルランドの古語ゲールが大切な役割をもつとともに、イェーツの詩も意味をもつ。神秘的なイェーツの詩は日本では難解中の難解と評されるが、町場の親父がその詩集に読みふけるというシーンには恐れ入るしかない。
先の大統領選挙のとき、イーストウッドが共和党支持と聞いて落胆したことがあった。今回も教会が出てきて教えを垂れる場面があるので、最後の展開はまたアメリカ的良心的解決かと、いささか失望しながら見ていると、そうではなかった。人生の把握、人間の観方が相当深いものだった。それが、感動的な読後感を形成していったのではないだろうか。
この映画の評価、星四つ半。お勧めの作品。
よかったらランキングをクリックして行ってください
人気blogランキング
映画館には昼間でも100人ほどいた。特に熟年の女性が目についた