千ベロ
1000円出せばべろべろに酔える居酒屋を言う。
私のお気に入りの門前仲町の「魚三」などはその最適の例だ。去年の秋に富岡町の魚三を知ってから、本店の門仲の店に至り、以来渋谷から遠いと厭うこともせず、2月に一度は店の前の列に並ぶようになった。冷静に考えると、あての魚の値段がべらぼうに安いわけでもない。ただ500円以下の値札がずらりと並ぶと安い気がしてくる。おまけに周りは定年後の前期高齢者ばかり目につく客筋で、みな懐が豊かと思えない御仁ばかりだから、きっと低所得に似合った低価格だろうと思い込んでもいる。
ネットで千ベロと打ち込んだら、同類の都内の店の名が20軒ばかりあがってきた。品川、渋谷、新宿、立石など。これをひとつずつ「お遍路」していこうかな。
ところで、土曜日のNスペを見ただろうか。認知症の母と共生してきた日々を追った、極私的ドキュメンタリー。作者はNHKの元ディレクターでドキュメンタリーの「大道香具師」を標榜してきた巨匠相田洋さん。大先輩だ。御年、77歳。「核戦争後の地球」をはじめ、名作をいくつもものしてきたが、現役を離れてもなおマイカメラで認知症の母上を撮影しつづけてきた労作が、看板番組NHKスペシャルとして、週末のゴールデンに登場したのだ。
番組は緻密さから遠く離れた粗いものだが、見る者をぐいぐい引き込む求心力があった。見当識も低下した母が、5分前のことも忘れる童子のようなイノセントで、息子におぶわれて、「どこへ行くの」と聞く。母をかついだ相田氏は、「あの世さあ」とやけくそに軽やかに答える。この乾いたアナーキーなユーモアは何だろう。度肝を抜かれる。
この番組は2つのことを考えさせる。ひとつは、番組制作者はいつまでたっても作るという嗜癖から脱け出せないということ。もうひとつは、ドキュメンタリストは究極の作品は自分の私秘性をすべて明かす覚悟が問われるということ。とてもじゃないが、後者などは私にはできない。
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