アンドリュー・ワイエス
梅雨どきの南風が吹く、黒南風(くろはえ)という。空がやや暗くなるからだというが、たしかに生暖かい風が吹くと雨雲が垂れて空は薄暗くなる。西東三鬼の句がある。
黒南風の 岬に立ちて 呼ぶ名なし
以前、韓国映画「僕の彼女を紹介します」で、風は魂の息吹を表現していると書いた。
風って、本当に不思議だ。どこから来てどこへ行くのか。
風を映像で表現するのは容易にみえてそうではない。ましてや絵画とあらば一筋縄ではいかないもの。
ところがアンドリュー・ワイエスは見事にハードルを乗り越えた。ここに掲げた「海からの風」という作品を見てほしい。

WIND FROM THE SEA
海に向って開いた窓にレースのカーテンがかかっている。海から風が吹いてきてそのカーテンをはためかすのだ。カーテンのはためき方がいい。重い潮風をたっぷりはらんでカーテンがしなる。
アンドリュー・ワイエスはメイン州の田園に住んで、そこからほとんど動いたことがないという。
そしてW・ブレイクのように「砂一粒の中に世界を、一輪の花の中に天国を」見るのだ。
アメリカには、時々変わった人がいる。『ライ麦畑でつかまえて』のサリンジャーなんて人物もいっさいプライバシーを明かさない。かたくなに自分のライフスタイルを貫く小気味よさ。
今日の大磯の空もくもっている。夕方になるのが早く、日が翳った。うそ涼しい風が海から吹いてくる。夕方というのは赤ちゃんでも何とはなくもの悲しくなるものと、庄野潤三が書いていたなあ。
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