仕事が楽
昨夕のこと。6時近くになって店仕舞いでもするかと、最後の企画書のパソコンを閉じようとしていたら、背後から「今、何やってんの」と声がかかった。振り向くと同期のNさんだ。さん付けにするのは一浪の彼は年齢としては66歳で年長だから。同じ福井県の出身として軽口をたたく仲だが、科学番組という畑違いで働いてきたから顔を合わせる機会は少ない。「いやあ、久しぶりだけど、あんたこそ何やっていたの」と近況を聞いた。
そこから彼の愚痴が始まった。
65歳で完全定年を迎えてから1年余り、彼も契約社員として時々仕事をしていて、月のうち半分は田舎福井に戻って両親の介護にあたっているという。自分の両親だからツレアイに頼むこともできないから半月以上田舎でおさんどんをやっている。往復はマイカーを飛ばして通うのだが、この行き帰りだけでも辛いとこぼす。
「見ろよ。10キロも痩せたんだぜ」と腹を出すが、昔のスリムな記憶からすると、ちっとも痩せているようには見えないが、当人は介護疲れでやつれてしまったという。
N氏の両親は現在92歳で、二人とも福井市内の自宅で暮らしている。現在の田舎は車がないと生きていけない。父上は2年前の90歳までマイカーを使っていたが、危なくて止めさせた。すると生活が成り立たないから、両親の近所に住むN氏の妹と交互に親の面倒をみることになった。この半年の出来事だ。
親たちと暮らしてみると、その我がままにほとほと疲れた。昔から美食家だった両親は食べ物でも「生協」からのお取り寄せは気にいらず、きちんとした魚屋、八百屋の品物を望む。その贅沢な食材の料理は、すべてN氏が行い、親たちは後ろからあれこれ指図する。
週に数回通う病院の送り迎えもすべてN氏の車だから、ゆっくりすることもない。おまけに母上は足が不自由になったので、家のなかでも介添えする必要がある。トイレ、ふろの世話も半端ではない。
そのくせ二人とも口だけは達者で、あれこれ不満ばかり述べて、感謝の意を表すなんてことはない。昔と変わらない親目線でN氏の手際の悪さを指摘する。
「二人とも92歳だぜ。何もできないくせに、口ばっかりでさ」とN氏は吐いて捨てるように語った。
ハンサムでKO大出身でぼんぼんのN氏は、昔から穏やかで女性からも人気のあったキャラだったが、すっかり草臥れきった老人になっていた。
「いやあ、たまに職場に来るとほっとするよ。仕事のほうがずっと楽だぜ」と言われると、忙しい忙しいと愚痴っているわが身が恥ずかしい。
ふっと考えた。大正10年生まれの父と15年生まれの母が今も生きていたらいくつになるかと。
なんだ、父が92歳で母は87歳か。
父は71歳で母は84歳で旅立っていたのだ。今から考えると子供孝行の両親ではあったな。
ところで、「はだしのゲン」の図書差し止めのニュースだが、松江の教育長の自己判断の身勝手さが気になっていた。
かつて、日映が撮影した原子爆弾の影響というフィルムがアメリカから返還されたとき、文部省が画面があまりに残酷だからといって勝手にフィルムに鋏を入れたことがある。それに対して被爆者たちが猛烈に怒った。
このエピソードを思い出したのだが、どうやら実態はそうでもないらしい。単なる自己判断ではなかったようだ。友人のブログを読んでいて気がついた。
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