去る人ありて
先日、夜更けに突然娘がやってきて、今葬式からの帰りだが、清めの塩をかけてほしいという。
ちょうど、ドラマ「半沢直樹」のスカッとカタルシスを感じる場面だったので、舌打ちしながら言われるとおりにした。不貞腐れて黙ってやるのも大人気ないので、「誰の葬式だよ」と一応聞いた。
待ってましたとばかりに娘はまくしたてる。「去年、私が単行本にした長野の郵便配達のおばあちゃん、覚えている。あの清水咲栄さんが亡くなったのよ。89歳。大動脈瘤が破裂したんだって」「残念だなあ、まだ生きていてほしかったな」としきりにその死を惜しむ。
それは違う。89歳まで、毎冬、郵便を配達するにそりで山村を滑って各戸に配っていた。その偉業に村人はみな感謝していた。ナカンズク、その出来事をお前の手で、『雪国 89歳の郵便配達おばあちゃん』という本に仕立ててもらったんだ。独り暮らしで誰の世話にもならず、89まで十分生きた。そのうえ、急病で倒れて2日で昇天したなんて、このご時世もっとも幸せな臨終だぞと、私が言うと。
「そうかあ。ぴんぴんころりのお手本だね。たしかに最後までしっかり生きていたから幸せは感じていたと思うし。でも、もう少し長生きしてほしかったな」と納得しつつ、別れをいつまでも惜しむ娘だった。
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