疾風のごとき青春
太宰と檀の悪友情②
草野心平と中原中也が連れ立って、太宰と檀のところへ来たことがある。
圭角のある中原を太宰は元々苦手としていた。一緒に来た草野は小柄な中原と違って
恰幅もあり悠然としていた。二人の用件は、まだ無名の宮沢賢治の詩についての相談だった。
日本文学史に残る名前がずらりと揃っている。今となってみれば豪華夢の競演だが、当時は売れない作家や無名の詩人でしかない。いきおい、皆鬱屈している。なかでも中原の性質(たち)の悪いのは有名だった。日ごろから人にからむような話し方をするが、酒が入ると始末におえなかった。寸鉄人を刺す言葉だ。
この日もそうだった。酔いが回るにつれ中原の目はすわる。
「おめえは、いってえ、どんな花が好きか」と中原は太宰に糾す。
口ごもりながら答える太宰「も・も・の・は・な」。泣いているのか笑っているのか、なんともいえない表情の太宰。それを見て、中原は侮辱した言葉でも言ったのだろう、凄まじい争いとなった。
――気がつくと、檀は草野の髪をつかんでいた。檀は太宰の側に立って、中原と草野に手を出したのだ。むろん、二人も負けてはいない。ドタンバタン、やっているうちに太宰はいつの間にか消えていた。
半時後、往来で檀が角材を手に仁王立ちしている。もし、中原と草野が出てきたら棍棒で一撃と玄関を睨み付けている。なぜこんなことになったのか、檀もよく分からない。じりじりと時間が経つ。
結局、二人は現れなかった。裏からでも消えたのだろう。もし両者が遭遇していたら、タダではすまなかったろう。
この出来事は、檀の友情であり、太宰の薄情である。
だが、檀は太宰をこよなく愛し、敬ったのだ。
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