モデル小説
女子高生のカリスマとして風靡したモデルの押切もえ。30の大台を超えてもテレビに、雑誌に活躍している。その人が、8月、「浅き夢みし」という小説を発表した。彼女にとってもっとも馴染みのあるファッションモデルの世界の内幕を描いた作品だ。私小説ではない。
昨夜読了した。よく書けている。特にバックステージの章、クライマックスでの盛り上げはたいしたものだ。大きなショーの舞台裏で、大きな事故に主人公瞳は巻き込まれる。その事故の場面の緊迫したやりとり、歯切れのいい短いせりふの行き交いはうまい。段落のスペース空けもいい。
だが、一方で、この章の後半で、副主人公リオが遁走するのはいただけない。逃げたなら逃げたままのほうがいいのでは。それを、瞳が追いかけて行って、リオに声をかけて説得するというのは、少しきれいごと過ぎるのでは。リオをもっとヒール(悪役)のままに動かしたほうがよかったのではと、思っても見る。
秘かに、好意をもつカメラマン敦高のこともやや淡白できれいすぎる。もっと感情が交錯してよかったのでは。ただ、この写真撮影の描写は緻密で深い。今まで、カメラマンがバシャバシャシャッターを押す姿というのを私は半ば馬鹿にしていたが、もえさんの今回の小説で、その造形の深い意味を初めて知った。ここの部分だけで、立派なメディア論になっている。
背が高くて、賞味期限ぎりぎり25歳の郊外女性が、都心の野心のジャングルへ殴りこみをかける、という物語はシンプルで分かりやすく、スカーッとカタルシスを与えてくれて実にいい結構だ。
文章は、今風の女性口語体を使うのは当然だし、業界のテクニカルタームが頻出するのももっともだ。それよりも短いセンテンスの色合いが多彩なことには驚いた。もえ嬢は文才大いにあり。
とにかく、昨夜11時から読み始めて1時まで、遅滞なく読み通した。トイレに行くのがもどかしく思えるほど、物語にひかれた。
文学ジャンルでいえば、今回の小説は「直木賞」サイドだが、端々に「芥川賞」サイドの表現が散開していた。さて、これから押切さんの小説はどういう方向に向かうのだろう。
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