昨夜、新宿で見た「夜泣きそば」
太宰治と檀一雄
『走れメロス』は、太宰治の名作の一つ。友を信じて苦難を耐え忍ぶ男の話だ。
純粋な友情を表す物語として、教科書にも掲載されている。
この話を太宰はいかにして構想したのか、諸説はいろいろあるだろう。檀一雄のエッセー
の中にこんな話をみつけた。
太宰が出奔して熱海にこもったことがある。原稿を書くためだと家人には言ったがなかなか書けない。うまいものを食べてあいまい宿の女と戯れているうち、金が尽きた。
送ってくれと妻初子に言ってきたので、工面した金を妻は檀一雄に託した。
檀は引き受けて熱海に出かけるが、ミイラ取りがミイラになりそこで共に遊興にふけり持って来た金も使い果たす。
さて困った二人。太宰が上京して金策に回ることにした。その間、檀が代わって人質となった。5日経っても6日経っても返事がないので、業をにやした檀は借金取りを連れて東京へ向かう。
太宰の立ち回り先は井伏鱒二宅以外ないと見て、訪ねる。玄関で名乗ると、奥で慌てた声の太宰がいる。檀が入っていくと、井伏と太宰は将棋をうっていた。
怒りにかられた檀は盤上の将棋の駒をぐちゃぐちゃにする。何が起こったのか分らない井伏の横で太宰はぼそぼそとつぶやく。「待つ身より、待たせる身のほうがつらい」。
これが『走れメロス』のモチーフになったのかもしれないと、檀は控えめに語る。
まさに泥の中から花を咲かせる蓮の花だ。嵐のような青春を火のように生きた太宰と檀。
後年、檀は「火宅の人」に疲れて日本を脱出したとき、ニューヨークで神経が衰弱する。
グリニッジビレッジの安宿にこもり自殺を図ろうとした。そのとき口にしたのが太宰恋しだった。計り知れない悪友情・・・。
梅雨の6月13日、太宰は玉川上水で落命。
奇しくも誕生日は同じ6月の19日。
その日を桜桃忌という。
檀ありて 悪友情や 桜桃忌
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