ふと気づいたこと
丸谷才一の小説はそれほどでもないが、文学論はおもしろいと知人が褒めるので『古典それから現代』という対談集を読んだ。丸谷は対談の名手ともいわれている。そのなかに、堀口大學との対話がおもしろく今朝眠りが明けてすぐ読み始めたらとうとう1冊読み通してしまった。
気がつくと9時を回っている。そろそろ出社の準備だが、まだ堀口の洒脱な対話が心気にしみこんで離れない。
堀口は「明星」の与謝野鉄幹、晶子に師事した。そのきっかけは吉井勇の短歌にひかれたことから始まると、堀口がうれしそうに語っている。アララギのような武ばった詩形でなくエロチシズムがそこはかと流れる新詩社の歌にひかれた堀口大學。
其の彼が進める吉井勇の歌。
君にちかふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも万葉集の歌ほろぶとも
堀口の父のことにも関心をもった。外交官であった九萬一は文学好きでもあって、フランス文学などを原書で読んでいた。その父のことで堀口がちらりと語っている。
「父は王妃事件の斬り込み隊の隊長で、老いた母と幼い子二人のことを、鉄幹先生にお頼みして行ったというんです」
ここでいう鉄幹は与謝野鉄幹で、当時朝鮮にいて日本語の教官となっていた。そこへ堀口の父は赴任して二人は親交を重ねていたらしい。そして、事件が起きる。高名な「閔妃暗殺」だ。この出来事に堀口九萬一が関係していたという。初めて知った。
その父も子も長命であったが、けっして平坦な道ではなかったようだ。その心境を大學は歌にしている。
わが上の寿永三年いくそ度へも来て安き今日の心ぞ
寿永三年というのは平家滅亡の前年のこと。つまり最大の危機を指す。その昔、どれほど滅亡の危機に出会ったことかと堀口は詠んだのだ。其の心境を丸谷にこう告白している。
「本当に不幸せだと思って、舌噛んで死のうと思ったことが何度あるかわからない」
――堀口大學という人はそういう人生を送ったのか。
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