愛と死をみつめて
昭和39年の日活映画「愛と死をみつめて」をDVDで見た。この映画は同時代で見たような気がしていたのだが、今回DVDを視聴して、見ていなかったことを確認した。
このベストセラーを読んでいたことと、青山和子の同名の歌謡曲(これはレコード大賞に選ばれた)で、イメージが私の中に抜きがたく植え付けられていたのだろう。見た気になっていたのだ。
初めてこのドラマを目にしたが、やはり違和感はなかった。抱いていたイメージを少しも裏切らなかったのである。
以前からミコと呼ばれた大島みち子さんと吉永小百合には好感をもっていた。
反対に、マコこと河野実氏にはその後、この物語が話題になるたびに週刊誌などで登場することで、なんとなく敬遠していた。
だが、映画のマコ、浜田光夫の演技には見るものがあった。今ならクサイと言われる恋人同士の仕草にもそれなりのリアリティと思いがあって反発はない。

小林旭の渡り鳥シリーズで有名な斎藤武市監督が、こんなヒューマンな物語を丁寧に描くとは思いもよらなかった。例えば、のっけから出演者のタイトルバックに幾何学模様の布地が使われていることに虚をつかれる。洒落てはいるが当初奇妙な気分が残る。本編の後段でそれは彼女の刺繍であることが判明する。少女の気持ちをあざやかに掬い取る秀逸な仕掛けだ。そういう気配りが至るところにあるのだ。そういえば、斎藤監督はあの小津安二郎の助監督を長く勤めた人だったのだ。
ベストセラーの映画化で大衆娯楽作品という先入観があったが、冒頭に芸術祭参加作品と銘うたれているのは、視聴後納得した。かつて、映画はプログラムピクチャーであれシナリオ、演出、撮影、それぞれの技量は端倪すべからざるものがあったのだ。
意外だったのが、宇野重吉、北林谷栄らの演技だ。自然主義的芝居は浮いている。
みやこ蝶々も笠置シズ子もそれなりに悪くはないが、評価するほどのものでもない。内藤武敏の青年医師はちょっといい。もっとも共感したのは笠智衆演ずるみち子の父だった。
私は、今回この作品を見て、父親の立場というものに深く心惹かれた。
みち子さんの父上は今も95歳で健在だそうだ。みち子さんが亡くなって2年間は、魂が抜けた状態が続いたと聞いたとき、父上の空洞の深さを知った気がした。
このドラマは、今風でいえば純愛だろうが、韓流のそれとはまた違う真摯な「重さ」を持っていることを、今回あらためて知った。やはり時代のもつ力なのだろうか。
私には、兵庫県西脇と聞くと、アンディ・ウイリアムスが歌う「君住む街角」を想起する。みち子さんのような気高く清純な人が住む町と思えてならない。
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