昭和の語り部のようにして
忙しいわりには心躍る出来事に近頃よく遭う。
江古田の大学で教えている映像アーカイブ論の前回の授業では、10年前制作した「向田邦子の秘めたもの」をとりあげたことから、その学生の反響がことのほかよく、本日もその続きの授業を行おうと昨日資料を集めたり調べたりした。
前にも記したが、10年前のドキュメントは向田さんの若き日の恋について描いたもので、その後の向田研究の先駆けになった作品と自負している。
この10年の間に、その恋をめぐるドラマや再現ドラマ、紀行ドキュメンタリーなど数本が制作された。その映像資料を取り寄せて視聴した。そこに描かれたワールドの異同はいろいろ考えさせるもので、伝説の生成というものはあらためて人間くさい所業なのだと感じ入った。そのことを本日の授業で語ろうと思う。
ところで昨日の朝日新聞のコラムで向田さんの乳がんのことが取り上げられていた。アメリカの人気女優、アンジェリーナ・ジョリーさんの乳房切除手術の話題と関連して書かれたものであろうが、ちょうど向田さんの調査を行っているときに其の記事を目にしたからシンクロニシティのような気がした。詳しくは書かないが、向田さんの乳がん発見は若い頃の思い出と深く関わっていると私は推測している。痕跡は名作『思い出トランプ』にある。こういう知的ゲームのような調査が続いて、期せずして気分が高揚した。
午後3時過ぎ、「ときわ荘研究会」の幹事さんから電話が入った。6月下旬の例会で講演してくれないかという相談だ。「全身漫画家・赤塚不二夫」のロケのときに名刺交換していたことから発生したお話のようだ。その後も「サンデーマガジン物語」や「ちばてつやのときわ荘」などのドキュメンタリーも私が手がけていることを御存知であったようだ。取材を通して知った範囲の話であればと応じると、幹事さんはたいそう喜んでくれた。
この忙しい時期にまたひとつ仕事を受けたりしてと後悔しながらも、「トキワ荘」の話が出来るならばどうしても語りたい恋の話があるのだ。前から一度関係者に聞いてもらいたいと考えていたこと。それを今度ぶつけてみようと思う。
―そして、忘れてはならないことがある。5月5日に放送された「日曜美術館・フランシス・ベーコン」だ。信頼する女性ディレクターが渾身の作品を仕上げた。この番組に大江さんを招きたいと相談を受けたことから、国立近代美術館の夜間ロケにも立ち会った。その際の大江さんの深い言葉に感銘をうけたが、45分の番組に仕上がったうえでも、その言葉は美しく響いていた。むろん、ベーコンの作品も人生も度肝をぬかれるほど素敵ではあるが。この作品の惜しいのは音楽が多すぎることだ。もう少し減らせばいいのだがと、旧世代に属する私は思った。
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