東京物語再見
久しぶりに小津の「東京物語」を見た。意外だったのは、母とみの死から終わりまでの時間がそれまでの前半と比べてけっして短くなかったことだ。尾道に暮らす周吉ととみの老夫婦は、東京に住む長男や長女を訪ねて東京へ出かけていき数日間の滞在。その後故郷尾道に帰ったところでとみが脳溢血を発症して危篤となり、東京や大阪にいる子供たちが集まってきて母の死を看取る。ここまでで映画の4分の3はあると思っていたが、今回見直して物語はまだ半分だった。東京へ物見遊山で見物に行く老夫婦の物語でなく、老いた父母とそれぞれの家庭を営むこどもたちの人生のすれ違いがテーマであることに、あらためて気づいた。そういえば、戦争で死んだ二男、その嫁で未亡人となった紀子、同郷の老いた友人たちの末路など、人生のアイロニーや悲しみが至るところに埋め込まれている。
医者となり医学博士までなったと自慢の息子は、東京郊外の大きな川の土手下に居をかまえる、さえない町医者でしかない。娘時代はやさしい子であった長女も嫁いで美容院を営むが仕事に追われて邪慳な振る舞いを見せるようになっていた。親子といえど、それぞれ家庭をもって生活が始まると、互いに思いやる余裕も次第に失っていくものだという紀子の言い分にももっともだと感じ入る悲哀がうっすらたちのぼってくる。
私の母は83まで生きていたが、晩年ひとりぐらしのなかで、とみや周吉のような悲哀を感じることも多かったと思われる。そのことを思い浮かべながら、映画を見つめていると苦い感情が胸をよぎっていく。
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