一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)
土曜の朝一番から新しい歌舞伎座の杮落し公演を見た。
朝11時から始まった第1部。3つの演目があったが、お目当ては有名な「熊谷陣屋」。『一谷嫩軍記』の名場面だ。源氏の勇士熊谷直実の陣屋で起きた顛末が描かれた浄瑠璃だ。
若武者平敦盛は、実は後白河法皇の御落胤。その命を惜しんだ義経が、家来の熊谷によきに計らうよう謎をかけておいた。戦場で相見えた熊谷と平敦盛。敦盛は古兵の熊谷によって討ち取られることになる。『平家物語』でもおなじみの場面だ。義太夫狂言の世界では史実を離れ、ここから物語ががらりと変化していくのだ。
一方、熊谷の妻相模は、戦陣の熊谷と息子小次郎の身を案じて、わざわざこの一の谷の陣屋まで来た。そこへ、相模のかつての恩人でもある藤の方が我が子の平敦盛の身を探しにやってくる。双方、母として子の行方を心配していた。
熊谷は敦盛の首を討ったとして、その首実検が主君義経の前で行われる。そして、敦盛の首と思われたのが、実は直実、相模の子小次郎の首ということを知って、悲しみに沈む相模。妻の悲しみを知りつつ、武士(もののふ)の大義を守らねばならない熊谷。
その圧巻が「制札の見得(せいさつのみえ)」となり、吉右衛門扮する熊谷直実が、悲しみをこらえて妻の激情を制する場面。
熊谷直実=吉右衛門、相模=玉三郎、藤の方=菊之助、源義経=仁左衛門、という豪華な顔ぶれでおよそ1時間の芝居が続いた。
吉右衛門という人の演技はさすがである。苦悩する直実がまるでそこにいるかのような存在感があった。杮落しにふさわしい出し物であった。
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