ぼっけもん
このブログの右端に記事のランキングがある。そこに「気になる漫画」が挙がっているのはなぜだろうと気になった。それは70年代後半にヒットした漫画に関するもので、私がもっとも心揺さぶられた恋愛ストーリー漫画「ぼっけもん」に対する思いをつづったものであった。
と、それに関連する情報をネットで探すと、作者のいわしげ孝さんが亡くなったという記事に遭遇した。58歳の若さで肺がんであったとある。驚いた。そういう「時事」的なこともあって、このブログをチェックする人たちがいたらしい。だが、私の記事が目立つぐらい、いわしげさんの存在はつましく地味なものであったのだろうか。
彼の描いた青春ドラマ「ぼっけもん」は戦後漫画史に残る名作だったと私は考えている。
もう、あの“熱い思い”をこめた漫画を見ることはできないのか。一途に人を愛する思いというものが、いわしげ孝の手による形象化として出現しないのか。
「キャップテン」のちばあきおが死去したときと同じくらいの衝撃をうけた。
遠い昔に読んだままになっているから精確ではないかもしれないが、「ぼっけもん」は熱血漢の浅井が思慮深い聡明な女性秋元に恋する物語であったと記憶している。秋元への慕情をもちながら、なかなか胸襟を開くことができない浅井の心情に共感しつつ、一方でもどかしさを感じて、毎週やきもきしたものだった。
作者のいわしげさんは寡作だったから、この「ぼっけもん」が終了してからはなかなか作品に出会うことがなかった。4,5年ほど前に連載が始まった「単身花日」で再び巡り合うことになったが、「ぼっけもん」とちがって妻帯者の恋というシチュエーションはあまり胸をときめかせることが少なかった。この作品は大きな評判をとることもなく早々に終幕をむかえた。なんだか、息の短い漫画だなといぶかしく感じたが、今となっては作者は病気がちだったのだろうかと推測するしかない。
いわしげ孝は鹿児島の出身、鹿児島を舞台に物語を作った。登場人物たちの造形はどれも熱く、魅了した。唐突かもしれないが、昭和初年に活躍した鹿児島の俳人篠原鳳作を彷彿させる。宮古島の分教場の教師として赴任し、島の若者のために情熱を傾けた篠原。海の旅を幾度も重ねながら本土と宮古島を往復した。そのおりに作った無季句の名作がある。
しんしんと肺青きまでの海のたび
南溟の海に広がる群青。いわしげ孝さんの漫画からいつもそんな純粋を嗅ぎ取っていた。
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