勿忘草
初代貴ノ花、二子山親方が55歳で亡くなり、早い死だと嘆く声が多い。
ふと、私は若死にした人物を番組でずいぶん描いてきたことに気づいた。
美空ひばり52歳、向田邦子52歳、川谷拓三54歳、津田恒美32歳。
少し古いが、力道山39歳、大伴昌司37歳、木下夕爾51歳、原民喜46歳。
夭死、夭折、夭逝――まだ若いうちに死んでしまうこと、若死にを表す言葉。
この言葉には、本来ならばもっと長生きすべき天命を、裏切るかたちの「非命」で
あるかの響きがある。
昨夜、25年前の川谷拓三のフィルム番組を見た。故郷土佐へもどって、貧しかった
少年時代をたどる旅の番組だ。そこにいる拓ぼんは若くナイーブで、エネルギーに溢れている。
その時から、彼は15年足らずしか生きない。
だが、彼の死は若死にだろうか。60歳の彼を想像することができない。
54という歳は、拓ぼんの天から与えられた命、「天命」ではないだろうか――。
親友の安江良介を62歳で亡くしたとき、大江健三郎は次のような言葉を死者に
贈った。
〈あらゆる死者は志なかばに倒れるが、その生涯全体を見わたすと、多くは豊かな
達成がある。〉
大江の言葉を肯定しつつ、石田波郷の句にもひかれてしまう。
勿忘草わかものの墓標ばかりなり
勿忘草は、春の花だ。
今は、庭先にカラーが咲いている。仏の座を思わせる葉の中に、淡黄色の花穂がすくっと立っている。
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