『雪国89歳の郵便配達おばあちゃん』
早朝目が覚めたので、傍らにあった本を手にとって読み始めたところ夢中になり、1時間で読了してしまった。『雪国89歳の郵便配達おばあちゃん』(廣済堂出版)。
長野の豪雪地帯にひとりで暮らしている清水咲栄さんが、郵便配達を委嘱されて毎冬雪をかきわけて郵便を運ぶという姿は、ローカルのテレビニュースで見たことがある。そのおばあさんの半世紀を聞き書きで描いた本だ。たしかに89歳が急坂の雪道をソリで滑って降りて来る姿はなかなか爽快なものがあったが、そのおばあさんの背後の人生にこれほど滋味深いものが潜んでいるとは思いもよらなかった。
大正13年に長野の「貧農」の家に生まれた咲栄さんが、結婚して、貧しいが正直な夫と懸命に生きて、でも人に騙されて多額な借金を背負って、その返済のために夫は出稼ぎに出て、咲栄さんは行商をやった。やっと借金の目処がたった頃に、夫は56歳の若さで交通事故死。涙も乾かないうちに、同居していた4女も40代半ばで乳がんで死亡。その悲しみから立ち直るまでの苦労も淡々と語る咲栄さんの語り口の魅力。
今、その書が手元にないから、うろ覚えで書くが、近所に5歳下の友達がいて、彼女は杖をついている。二人は会うと、いつも、「あんたは私より年下なのに杖をついて」と咲栄さんはいうと、そのおばあさんはいつも同じ答えを返すと、咲栄さんは笑う。毎度同じ話ばかりをしてと、自分たちの境涯をちゃんとこの人たちは見ていながら、けっしてそれをやめることはない。人間とは人との交わりだという人生の大真実を、やさしい言葉を使って教えてくれる。私はこのくだりに感動した。
実は、この書は娘が編集者として関わっている。2,3日前にこんな本を作ったからといって持ってきた。それを枕元に置いて今朝読んだのだ。
親ばかになるが、こんな本を作れるようになった娘の成長に感動する。よくぞこういう人物に注目して、きちんと向き合って身の上を聞きだしたものだ。この本の文章力、構成もきわめて優れていた。例えば、怪我で指が2本ほど切断しているという話。物語の後半でさりげなく出てくる。この位置がいい。
それにしても雪が4メートル半も積もる豪雪地帯というのは想像を絶している。雪をかくのでなく雪をはらうでなく、雪を掘るそうだ。この雪のなかで何度も死にそうな経験をしている咲栄ばあちゃんだが、自然を怖いと思ってもおびえてはいない。その背筋のぴっと伸びた生き方は見事。
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