すたすた坊主 busy busy beggar
東急文化村で、「白隠」展が開かれているので、のぞいてみた。
入場料1400円。シニア割引なし。中へ入ってみると、シニアばかり。これでは割引をしたら展覧会の採算が合わなくなるだろう。最近、シニア慣れしてきた当方としては割引がないことは不満なのだが。とにかく、おおぜいの中年の男女が観覧していた。
白隠の名前ぐらいは知っている。江戸後期に活躍した禅僧にして絵描き。修行と称して、京都五条大橋の橋のしたで「乞食」暮らしを20年やったという逸話がある。
長寿だったので、80歳を超えても描きつづけ、生涯1万点の作品を残した。今回の展覧会はそのなかから選りすぐりの100点が集められている。
禅画だから、画面には漢詩、和歌、狂句、はやし言葉などさまざまな文言が「賛」というかたちで書きこまれている。そして、絵のほうは、水木しげる+ジブリ+榊莫山+大雅のような枯れているというか洒脱というか、素朴な画風。扱う題材も、禅僧としての教えを説くようなもので、観音様、達磨、鐘旭など人物が主で風景画というのは見当たらない。
晩年は、大名や公家に御目文字するほどの地位について、禅宗の有難い教えを説いたという。が、描かれた絵は、まるでイラストのような軽いノリで、地獄の閻魔様が亡者を集めてごしごし命の洗濯をする光景など、俗耳に届きやすい事柄を絵にしている。
書も賛に書かれたものは、神経質そうな分かりやすい楷書体。大きな文字でどっしり書いたものは、「死」「孝」「親」「南無大地獄菩薩」など。有名な「無」もあった。分かりにくいものは一つもない。
この字のなかで、心に残ったのは「死」だった。
さて、陳列の終わりのほうに、半裸の男が早足で行く姿の掛け軸があった。題名はすたすた坊主。英語表記は busy busy beggar とある。
江戸時代、お寺参りに行くのは庶民の道徳的義務のようなものだった。だが、大店の主人などは多忙でそうそうお寺に行くこともかなわない。そこで、そのお寺参りの代人をやって賃をもらう坊主(もどきか?)が出てきた。そういう輩をすたすた坊主と呼んだそうだ。英語の意味でいくと乞食坊主ということだろうか。
でも、そのすたすた坊主の顔が実に柔和なのだ。カネがなくても着物がなくても、心は日本晴れというような表情を、白隠は描いていた。
分かりやすく、楽しい作品が並ぶ「白隠展」に一度お出かけすることを薦める。
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