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昔の恋

昔の恋

雪の季節になると、金沢のお茶の師匠だった清子さんを思い出す。商家に生まれ育った清子さんはおっとりした金沢弁で人の情けを巧みに表す才女でもあったが、そんなことは気振りにも見せない。
清子さんには二人の娘がいて、上の娘と私は同じ彦三の教会に通っていた縁で材木町の清子さんの家に出入りするようになった。その家は卯辰山の麓にあって、すぐ側に淺野川が流れていた。
学友の江口君と私は週に1度お茶の稽古の手ほどきを受けるようになった。清子さんは裏千家の茶道の師範で、花嫁修業の若い女性たちがおおぜい通っていた。金沢では茶道は教養のひとつでもあった。

 清子さんの伴侶は他所に住んでいて、その家には清子さんと二人の娘の、女だけの家だった。肉体労働を主とする男仕事が必要なときには、私のような暇をもてあましている学生に声がかかった。
ある雪の日、私はアルバイトとして清子さんの2階屋根の雪を下ろすこととなり2時間ほど汗みずくになって雪かきをした。昭和43年ごろのことだ。一息いれて、再び大屋根にあがって雪を下ろしはじめたとき、スコップに勢いがついてガラス窓を突き破ってしまった。大きな一枚板のガラスは木端微塵。雪おろしの駄賃の何倍もする大ガラスだったから、普段穏やかな清子さんもさすがにむっとした。焦った私は必死で割れたガラスの破片を拾いながらどうやってアナを防いだらいいか妙案も浮かばず、途方にくれた。
 清子さんはどこかへ電話をかけていた。やがて私の前に現れて、「うちに出入りしている大工さんに頼んだから心配せんでええよ」と静かに言った。いつ来ますかと聞くと、夕方になるだろうという。それまでの応急と考えて、新聞紙を数枚重ねて窓枠に張った。無粋で不格好だったがしようがない。そのうち大きな牡丹雪が降ってきた。清子さんに会わせる顔もなくぼんやりしていたが、屋根にいつまでも居座ることもできずやむなく階下に降りて、清子さんにお詫びした。「どもねえ、どもねえ」と清子さんはお茶をいれながら私のそれまでの苦労をねぎらってくれるのであった。

家に逃げ帰った私は、その週のお茶の稽古もさぼった。気がひけて、なかなか足が清子さんの家のほうへ向かなかった。
 2ヶ月ほど過ぎて、夜半に訪ねた。桜が終わりかけで花冷えの夜だった。火鉢に火が入っていた。久しぶりにおばさんの手料理と鶴来の酒をいただいて、私はすっかり出来上がっていた。火照った顔で清子さんと娘を相手に照れ隠しの冗談を連発していた。火鉢には金網が敷かれて、小糠ふぐが乗っていた。かぐわしい匂いが漂っていた。
 清子さんが思い出したように、あの雪の日のことを話し始めた。私はぎくっとした。
「あの日、ガラスの修理をやってくれたのは左官大工のSさんだったわね。あの人がね仕事をしながら歌をうたうのね」さも可笑しそうに語る。「同じ歌を何度も何度も歌うのよ」
 ♪千里離りょうと、心はひとつ
「昔流行った娘船頭唄。低い声で船頭可愛いやとそれはそれは愛しそうに歌うがや。心をこめて歌っていたんやな。つい私はあの人に聞いたのや、そんなに奥さんに会いたかったのって・・・」

「目にいっぱい涙ためてあのSさんは言うたもんや。わしゃあ、ほんまに会いたかったよ。日本へ飛んで帰りたかったって」
普段口の重いSさんが、出征した満州の国境での心境を清子さんに語った。厳寒の満州は歩哨として立っていてもすぐまつげが凍りつく。“どもならん”寒さだったと告げながら、Sさんは置いてきた奥さんのことが恋しくてたまらなかったと、清子さんに繰り返し語ったそうだ。
「わたしは、あのときのSさんの目が忘れられんわ」
感に堪えない顔で、清子さんは語った。「昔の恋はおとなしかったけど、胸のなかにはいっぱい火が燃えとったんやぞ」
清子さんはその後10年余り生きた。
その清子さん自身も実は熱い恋を生き抜いていたということを知ったのは、死後3年もたってからののことであった。「娘船頭歌」を小さな声でゆっくり歌うと、この出来事を聞かされた43年の金沢が浮かび上がってくる。

♪千里はなりょうと 思いは一つ
おなじ夜空の 同じ夜空の 月をみる

♪独りなりゃこそ 枕もぬれる
せめて見せたや せめて見せたや わが夢を



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by yamato-y | 2012-12-27 08:22 | Comments(2)
Commented at 2012-12-27 13:37 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 永田浩三 at 2012-12-28 11:20 x
素晴らしい短編の小説を読んだ気分です。Yさんも清子さんへの、淡い恋ごころがあったように読みました。
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