大往生
秋に放送されて、内外から暖かい評価を受けた、ETV特集「吉田隆子を知っていますか」が4月のアタマに再放送されるかもしれない。
本来は、去る12月初旬の日曜日に再放送される予定であったのだが、中村勘三郎の急死で、その時間帯が彼の追悼番組に変更され、そのためわが番組の出番をなくした。予期できない突発事であったとはいえ残念だった。なんとか、今年度内に再放送をと願っていたが、どうやら事務局の努力もあって、今年度のどん尻に配置してくれそうな気配が出てきた。
さて、このドキュメントのなかで感動的な証言をしてくれた人物に、川尻錦子さんがいた。戦時下、治安維持法違反という廉で逮捕拘留されたときのことを証言してくれたのだ。当時、左傾の文化団体は治安当局から狙い撃ちされて捕縛された。錦子さんも兄とともに下町の警察署に連れていかれた。
そのとき錦子さんが見たもの――取調室全体に小林多喜二の拷問される様子の写真が張ってあったのだ。おそらく拘引された者を威嚇し、自白を促すための「装置」であっただろうと錦子さんは推測した。小林多喜二の死はこれまでさまざまな臆説が流れたが、いまだ闇のなかにあるといえるだろう。そういうなかで、知られていなかったこの事実を明快な言葉で表した錦子さんの証言は貴重なものであった。今年94歳になるのだが、記憶も意識もはっきりしていた。
ところが、10月ごろから寝たり起きたりのくらしとなっていた。やはり94歳という高齢は大きく圧し掛かっていたのであろう。うつらうつらする傾眠状態になっていった。
錦子さんの夫は民衆史の研究家で画家の戸井昌造で10年前に死去している。息子は作家でドキュメンタリーも制作する戸井十月、私と同年のベビーブーマーだ。この戸井十月氏の家で錦子さんは最後をむかえることになった。
錦子さんの最期は息子の十月氏の腕のなかで眠るようにして逝ったそうだ。
長い歳月、民衆の平和と幸福のために戦い続けてきた川尻錦子さん。立派な人生だった。
「お疲れ様でした。有難うございました」と声をかけてあげたい。合掌。
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