幸あれかし
先日、耳の診療にかかったばかりで、昨日は抜歯を行った。
左下の奥歯である。今年初めに風邪をひいたとき、虫歯が浮いているような気がしていた。が、それ以上痛みをともなうものでなかったので放置した。
夏を越え、秋のたけなわとなり、寒さが肌に染むようになり、虫歯がぐらぐらしてきた。
ここ数年お世話になっている守屋歯科に行くと、「この歯は相当な段階に来ていますね、抜歯することになります」と重々しく通告された。
重い気分を変えようと、私は軽口をたたいた。
「来年1月の定年までに片付けてくれませんか。新しい入れ歯は簡単で結構です。あと4,5年ぐらいで店仕舞いしたいので」
「えっ、70歳ぐらいで店仕舞いするつもり」と守屋先生は素っ頓狂な声をあげた。
*
オフィスに戻り、情報を検索していると、懐かしい名前が現れた。40年以上前、金沢時代に知り合った人の名前だ。ずっと忘れていたが、字を見て思い出した。その人は土木建築業に従事していた。穏やかな人でいつもにこにこしていた。事情があってその人とも会えない境遇になってしまったので、この四十年の動静は知らない。
その名前であらためて検索すると、思いがけず、たくさんの情報があった。どうやら、その人は勤務していた建築会社の代表になったようだ。
それだけなら嬉しいのだが、ネットの情報は辛いことを告げていた。彼が代表になっている会社が、数十億の負債をかかえて倒産したという。ここ数年続く不景気は地方の建設会社を直撃したらしい。名門の会社であったが、どうやら知人はその最後の社長を任せられて奮闘してきた果ての倒産だったようだ。
日付を見ると、3年前のことだ。衝撃的な事実を知らされて言葉を失った。気の優しい人だったから、資金繰りなどの荒い仕事はきつかっただろうな。数十人の従業員の生活を守るために必死で大手や中小のゼネコンを回って営業したのだろうなあ。口の重い人だったから苦労したにちがいない。その挙句に倒産か。
この後どうしただろうか。今はどうしているのだろうか。
第1線を退いたにしろ、なんとか社会とのつながりをもっていてほしい。できれば、穏やかな老境に入っていてほしい。幸あれかし。
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