夏の星座
昨夜、東の空が大きく晴れた。大気が安定しているらしく、普段見えないような小さな星の光がおびただしく輝いていた。見かたによっては、コップからこぼれたミルクのように白く夜空に滲んでいた。屋上にあがって星を見る習慣を長く忘却していた。
大磯に家を建てた1993年ごろには、よく眺めたものだ。屋上にあがって、裏の紅葉山の峰から相模湾までを覆う天蓋に、はりつくような小さな星星を探して特定して愛した。ことに冬の星座は明確で、その凄まじい光に圧倒されたものだ。夏は涼をもとめて星さがしをやったものだが、水蒸気が多いせいか空が霞んで見つけられる星の数が少なかった。
ところが、昨夜の星座は4等星あたりまで見つけられるほど澄んだ夜空だった。
平畑静塔の俳論を読んだ。前から気になっていた人物だ。京大俳句事件に連座している。
和歌山出身で、京大の理系に入って湯川秀樹とも交友、後に精神科医となる。在学時から名門京大俳句に出入りし卒業してからも京大俳句にかかわり、同人誌の編集・発行人を務めていた。そのときに特高から狙われたのだ。通説では「鶏頭陣」の主宰者小野蕪子のちくり(密告)といわれている。当時、小野は日本放送協会の芸能班の幹部だった。その職種を利用して政界、官界に顔をうっていた。俳壇では彼の機嫌を損じると危険であるという噂が流れていた。
静塔は執行猶予付きとはいえ2年半の懲役の判決がおりた。この経歴は終生彼の影となる。このような人生を選んだ人物の句とは、俳論とはいかなるものか、むさぼり読んだ。
語らなくてもいいことかもしれないが、私には気になる戦後の出来事がある。 平畑静塔は西東三鬼、橋本多佳子と激しい鍛錬会を行ったというのだ。現代俳句の鉄人二人を相手に、一見穏やかな静塔はどんな腹のくくりかたをしたのだろうか。一人はノワールの匂いたっぷりの三鬼。もう一人は若くして寡婦となった美貌の多佳子。火を噴くような句を次々にひねり出して、相手を圧倒しようという鍛錬会。その状景を、夏の夜空のスクリーンに映し出してみた。
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