ターナーのもやもや絵、ミレイのあいまいな絵
実は、この10日足らずのなかで、60分のアート番組を2本も作っている。通常ではありえないペースだ。
1本はジョセフ・ターナーとその代表作「吹雪 港の沖の蒸気船」を描いた番組で、題して「渦巻く大気をつかめ ターナー・究極の風景画」。これは先週末に仕上がった。
もう一本はジョン・エバレット・ミレイの「オフィーリア」。ハムレットのなかのヒロイン、オフィーリアの水死のさまを描いた、この世の美しさを超越した美を実現した傑作の謎を明かすもので、タイトルはまだ決まっていない。仮題は「美しき無表情の秘密」としている。こちらは編集まっただなかで、昨日の日曜日も青山の編集室で試写をし、明日が最終の試写となる。もはや余裕がないのだが、まだ完成のイメージが掴めていない。
画家たちの名前を聞いて分かるだろうが、ふたりともイギリスを代表する芸術家。今月から始まる「イギリス特集」の一環として企画がオーソライズされた。といって、イギリス人の芸術は理屈先行で華やかなものが少ない。まあ、ミレイの作品はともかくとして、ターナーの絵はいただけない。一見、灰色、黒、こげ茶色の色のかたまりがぐるぐると渦巻いているだけのようにしか見えない、地味な絵だ。実際は、嵐の海のなかで、蒸気船が波と風と吹雪に翻弄されているさまを描いているというのだが、ちょっと見だけでは、なかなか分からない。
この「辛気臭い」絵を解き明かすのが、コンピュータ・グラフィックスの名人、野口光一さんだ。この人のキャラがいいので、この面倒な絵でも、だんだん番組は魅力を帯びてくる。ちなみに、野口さんは今年の初めに話題になった映画「はやぶさ はるかなる帰還」であの衛星のはやぶさの宇宙航行をCGで映像化した人物。
少しだけ種明かしをすると、この番組では、絵の謎を探るなかで、この静止画を野口さんが実際に動画にして絵を動かすという仕掛けになっている。このアニメーションが実にいい出来なのだ。
ぜひ、ご覧いただきたい。放送は今週6月6日。「極上美の饗宴」。
さて、問題はミレイの絵。これがなかなか手ごわく、なかなか本質を掴めない。
ハムレットになじられて,河のほとりをぶらぶらしていて、ちょっと気がゆるんで河に落ちてしまったオフィーリア。本気でもなかったから、何が起きたか自分でもつかめていないという、あいまいな感情のオフィリーア。その逸話をミレイは絵画化した。
たしかに、少女の表情は無表情というか、さまざまな感情の重なったというか、複雑なものが堆積している。この絵の真髄はこの表情にかかっているのだが、いまだにその本質を把握できていない。いったい、ディレクターたちはロンドンまで行って何をしてきたのだと、声を荒げそうになる。
明日の5時からの試写が最後の試金石になるだろう。
シェークスピアの原作はこうなっている。
「あの子はその枝で豪華な花飾りを作っていました。
その素敵な花輪を垂れた枝にかけようと柳によじ登った途端、意地の悪い枝が折れ、
花輪もろともまっさかさまに、涙の川に落ちました」
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