ターナーのことや美術番組など
美術ドキュメンタリーでイギリスの画家、ターナーとミレイの作品を手掛けている。
まもなく始まるロンドン五輪に連動させる企画だ。ミレイのほうはまだ日本国内ロケが終わっておらず、まだ編集にもはいっていない。ターナーは3週間ほど前から編集に入り、これまでに2度試写をしてチェックしてきた。まもなく完成に近づいている。
ターナーという作家は18世紀の単なる風景画家としか見てこなかったのだが、今回番組として関わっていくと、ターナー作品の奥深さにいろいろと感じるものがある。番組のメインとなる作品は「吹雪」。嵐のなか、猛吹雪に立ち往生する貨物船の様子を描いた「風景画」。波とガス(海霧)と突風が渦巻くなかに、貨物船がもみくちゃにされている姿であるが、灰色と黄銅色と灰青色の大きな塊がうねっているにしか見えない。思わせぶりでたいしたことがないと、これまではうっちゃってきた。が、よくよく目を凝らすと画面から嵐の波と風の音が聞こえてきた。ウソでもなければ誇張でもない。すさまじい自然の猛威が画面の向こうから観る側に襲って来る。ブンブン唸りを立てる。こんな体験は初めてだ。恐れ入った。この絵が発表されたとき、それまでのオトナシイ風景画とまったく違うので大顰蹙をかったという逸話も理解できる。フランスの印象派はこの後の時代に登場するのだから、ターナーの先駆ぶりというのはたいしたものだ。
この実物はロンドンのテート・ブリテンにあるという。一度見に行きたい。
夕刻、関西から郵便物が届いていた。昨年担当した小早川秋聲の展覧会のお知らせと新しいカタログだ。甲子園にお住まいの秋聲研究家の松竹京子さんからの小包みで、丁寧なお手紙と貴重な作品が収録されたカタログが送られてきた。松竹さんの尽力で秋聲を見直す機運が、秋聲ゆかりの山陰で高まっているようだ。もし、昨年の番組もきっかけの一つになったとすれば嬉しい。
振り返ってみると、昨年から今年にかけて5人の絵描きたちを番組にしてきた。最初のカラバッジョはディレクターの強引さのため不本意な番組となったが、そのあとの小早川秋聲、速水御舟、ジャクソン・ポロック、そしてターナーのドキュメンタリーはどれもわくわくするものがあった。本音をいえば、もっと美術番組をやってみたい。マックス・エルンスト、グリューネバルト、宮本二天、ポール・デルヴォー、アンドリュー・ワイエスなど。手がけてみたい作家や作品はまだたくさんあるのだが、残念ながらもはや時間がないし、美術番組の枠も私の手の届くところから遠のくことになった。
考えてみれば、私が最初の海外取材をしたのは、ピカソの「ゲルニカ」だった。32歳のときだった。当時、日本がようやく国際化しはじめた時代で、まさか本物のピカソ作品に出会えるとは思えなかったから、ニューヨークやロンドンのギャラリーで遭遇したときの感動は言い表しがたいものがあった。
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